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アメリカ在住大学生が映画を語るブログ

イラン映画『オリーブの林をぬけて』感想ネタバレ:どんな逆境でさえも結婚を諦めない青年のラブストーリー

 

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Miramax Films

こんちくわ!Shygonです!

今回はコケールトリロジー3部作の最終作

オリーブの林をぬけて

について熱く語りたいと思います!

1994年に製作された本作は、イラン出身の巨匠アッバス・キアロスタミ監督作品です。

「コケールトリロジー」とはイランのコケール村を舞台にキアロスタミ監督が映画化した3作品。

キアロスタミを世界的に有名にした作品でイランに住む人たちの日常を切り取って描いています。

 

背景とあらすじ

 「オリーブの林をぬけて(زیر درختان زیتون)」

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コケールトリロジーの最終章。

1作目「友達のうちはどこ?」、2作目の「そして人生はつづく。」に続く3作目。前2作に撮影現場で実際に起きた出来事を原案に、映画撮影中に、俳優として参加する男の切ないラブストーリー。

素人をよく起用することで有名なキアロスタミ監督が放つ「コケールトリロジー」最終作は、コケールを舞台にこれまで映画を撮ってきた作品たちの最終章にふさわしい映画。

 

本作は「コケール3部作」の最終話として、世界的に取り糺され、その年のイラン映画代表として、アカデミー賞に選出されるも、ノミネートはならず。

 コケールトリロジーをおさらい

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1作目の「友達のうちはどこ?」は、ある6歳の男の子が友達宿題を間違えて持って帰ってきてしまったことで、友達にその宿題を返すために隣町まで行く映画。

2作目の「そして人生はつづく」は1990年に実際に起きたイラン大地震後、前作に出演した俳優たちの安否を確認するために、コケールに訪れる映画監督をドキュメンタリータッチで描きました。

3作目の「オリーブの林をぬけて」では、前作に出演していたある青年がひとりの女性と結婚しようと奮闘するラブストーリー。

 

世界最大の塩湖カルピ海に面するコケール村を舞台に全ての作品が撮影され、キャストは実際にそこに住む素人から構成される。

 

本作「オリーブの林をぬけて」には、1作目「友達のうちはどこ?」に出演していた先生役の人がひょっこり出演していたり、同じく1作目の主演の男の子アハマッドくんの成長した姿が見れたりとファンサービスをしっかりしてて興奮!!!

 

こんな素朴な可愛い男性がいるのか

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本作を含む「コケールトリロジー」ではイランの小さな村コケール村を舞台に、イランの日常を描いた。

キアロスタミ監督が公言するように、小津安二郎監督の影響を受ける作風で、悪く言って映画の中での起承転結が全くない。

単にドキュメンタリータッチでイランという国に住む人たちの日常をただひたすら描く。人が死ぬわけでもなく、なにか特別なことが起きることがない。

でも全く飽きさせない。ここがキアロスタミ監督の手腕の高さであろう。筆者の中で本作「オリーブの林をぬけて」がキアロスタミ監督の手腕の高さが1番懸命に垣間見れると思う。

 

トーリー自体は前作そして人生はつづくの撮影中におきた実際の話を映画化しているだけ。主人公ホセインが意中の女性と結婚するため、一生をかけて落としにいく恋物語だ。

文字も書けない、家もない男は将来のこおを考え、せめて文字の読める女性に嫁いで欲しかった。

 

本を読むのが好きなタヘルは、一日中本にふける女性。

映画に出演中のホセインは撮影中も映画のことなどどうでもよく、気になるのは共演者のタヘル。

タヘルだけのことをこれから見るし、一生かけて幸せにするから結婚してよぅ!と幼稚園児みたいに嘆くも、無視状態。

 

性にとって、結婚の最大の関門は相手方のご親族への挨拶であろう。筆者のまわりでも最近徐々に結婚するという同級生が増えてきたが、彼らは口を揃えていう。

あんなに緊張する瞬間は他にないと。童貞を卒業するときより緊張すると。経験上若いうちに結婚する友達ほど、相手方の父親がヤクザみたいな人らしく、その話を聞くたびにゲラゲラ笑ってしまう。

 

結婚前のご両親への挨拶はどの国でも男性にとっては難関らしいぞ。と本作は言っているような気がする。

地震で両親を亡くしたタヘルのラスボスはおばあちゃん。このおばあちゃんがめちゃくいゃ手強い。

文字も読めない、家もないホセインなど目にくれない。それでも諦めないホセインはおばあちゃんのところへ毎日通い、タヘルに対する気持ちをアピールする。も、聞いてもくれない。

 

男としてはそんな悲しいことがあるのかと一男として応援したくなる。無邪気に意中の女性と幸せな家庭を築きたいと願う若い男はこうも美しいのかとふと思う。

 

文字を読めるとか家があるとか

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Miramax Films

1990年のイラン大地震で死んだ多くの親戚の方が親切だと不謹慎なことをぼやくホセイン。

死人に口なしというようにそれほどタヘルとおばあちゃんを憎く思ってしまうほど、ホセインは悩んでいるのです。

近くに広がる林は親切にホセインの訴えをきちんと聞いてくれる。それに比べてタヘルは耳も貸してくれない。

 

本編の中で、疲れ切ったホセインはこんなことを言い出す。

"地主とお金持ちや字が読める人同士の結婚ではなく、

お金持ちと貧乏人や字が読める人と読めない人が

結婚して助け合えば世の中はもっと良くなるのになぁ。"

 

と。続けて語り始める。

 

"結婚するふたりのそれぞれが家を持っている意味なんてない。"

"だって2軒も持ってたって住めやしないでしょ?"

 

タヘルのことで頭がいっぱいなホセインからは、家がないから、字が読めないから、という理由で結婚を拒否させる男の切ない男心が読み取れます。

 

1作目「友達のうちはどこ?」と「そして人生はつづく」では小学低学年の男の子の目線からイランの小さな村コケールを描いてきた。

だとすれば、本作はちょっと成長した、ひとりの女性を想い続ける青年の心情を描く。

前2作では、元氣に走り回る無邪気な幼い男心を描き、作品として活気があり、子供の目線からイランを読んでいた。

そんな2作とは打って変わって、本作では少し成長した思春期真っ只中の青年の恋心。描く対象は成長しえど、また違った形でイランの魅力が描かれた本作。

 

大満足の一本である。

 

びぇ!

イラン映画『そして人生はつづく』感想ネタバレ:大地震で崩壊した町で少年を探す旅

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EUROSPACE

こんちくわ!Shygonです!

今回はコケール・トリロジーの第2作目イラン映画

そして人生はつづく

について熱く語りたいと思います!

1992年製作の本作は、イラン出身の映画監督アッバス・キアロスタミの作品です。

キアロスタミ監督は桃色の味でパルム・ドールに輝いた世界的に有名な巨匠。

 

辛いことがあっても人生は続く。

 1990年イラン地震の全ての被害者へ

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1990年、イランで大地震が発生。死者及び行方不明者は40000人以上と史上最悪の地震がイランを襲いました。

日本みたく耐震工事がされた家が少なく、単に石やコンクリートで塗り固められた家が多く、そのほとんどが崩壊しました。被害者のほとんどは倒壊した家の下敷きになり、命を落としました。

世界中から支援物資が届けられるも、多くの人が命を落とし、忘れてはいけない出来事になったのです。

 映画監督がコケールへ視察

本作を製作したイラン出身のアッバス・キアロスタミ監督は震源地の近くコケールで前作友達のうちはどこ?を地震前に製作していました。

キアロスタミ監督の意向から映画を製作するときは無名の一般人でさつえいすることを徹底していることもあり、前作で出演した市民たちがその後どうなったのか、地震後に監督自身がコケールに視察へ行きました。

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作「そして人生はつづく( زندگی و دیگر هیچ )」はそこでも出来事をドキュメンタリータッチで描いています。

主人公の頭がハゲ散らかした中年男性は映画監督。ひとりの息子とともにコケールの様子を伺いに行きます。

本編ではキアロスタミ監督ではなく、別のイラン出身の監督が演じていますが、キアロスタミ監督自身が見た光景をそのまま映画化したのです。

 

本編の中で主人公は前作の撮影場所や俳優たちを探す旅に出ます。私たち観客は地震によって崩壊した街を垣間見ることができます。

どれだけ悲惨なことがコケールではあったのか、どれだけの人が命を落としたのかを目の当たりにするのです。

 

ランと聞くと、日本からはあまり馴染みがなく、程遠い国に思われだちですが、本作を見るとまるで自分の身の近くで起こったかのような錯覚に陥るほど絶句する光景が広がります。

前作友達のうちはどこ?に出演していたクラスの友達やポシュテ(主人公アマハッドが訪れた隣町)で案内役をしてくれた老人に出くわします。

前作で見れたペルシャ文化を象徴するような美しい建物の姿など後語りもなく消え去り、ボロボロに崩された廃墟がたたずんでいたのです。

それでも必死に助け合い生きて行く様は勇気をもらい、自分たちをも鼓舞してくれたようが気がします。

 

小津は世界に生きる

イランを代表する巨匠アッバス・キアロスタミ監督は本作を含む「コケールトリロジー」3部作で世界的にその名が知られました。

前作友達のうちはどこ?、本作そして人生はつづく、次作オリーブの林をぬけての3部作。

キアロスタミ監督自身がインタビューにて小津安二郎監督の大ファンと公言しています。

それが彼の作品でも見受けられるように小津調と言われる小津安次郎監督の特徴が本作でも顕著に表現されています。

小津安二郎の作品はこちら

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ハゲの映画監督と可愛い少年親子の珍道中

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地震によって街全体が崩壊し、パニック状態になるコケール。

コケールに住む市民たちの安否を確認するため、すぐさまコケールに車を飛ばす主人公の親子ですが、その道のりはヒドイものでした。

ボロボロに崩れ落ちた家に、落石によって潰された車、そして家族を亡くし涙を浮かべるお婆ちゃん。

人にはそれぞれその人たちの人生があり、物語が存在します。そんな彼らの人生を一瞬にして消してしまう地震の脅威。

コケールに続く道は大渋滞している上に、道自体に亀裂が入り、なかなか前に進めない。

 

作は前作の特典映像みたく、実際に撮影されたロケ地や出演者たちが続々と登場します。

主人公アハマッドくんを案内したお爺ちゃんやクラスの同級生など、まるでDVDに付いてくる付録映像みたいな感覚です。

みんな少しずつ成長し、老けている。ロケ地として撮影した印象的な街並みは跡形もなく、崩れ去り、自然だけが健在にその美しさをいまだに保っています。

本作は緻密に計算されたカメラワークや起承転結がきっちり存在する脚本がある映画ではなく、ドキュメンタリーとなんら変わらない地震後のコケールの現状を描いただけです。

そんな単なるドキュメンタリータッチの本作にはいたるところにアッバスキアロスタミ監督の手腕が垣間見れるのです。

 

コケールの現状と映画としての魅力

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小学低学年ほどの小さな男の子プヤは映画監督の父親に言われるがままにコケールにやってくる。

長い車の移動に疲れ切っているプヤはコーラが欲しいだの、おしっこに行きたいだの、まわりの事態など御構いなしで好きなように発言し、動き回ります。

 

遂にコケールが近くなり、疲れ切ったプヤはトンネルの前で眠りにつく。トンネルに入り、暗くなる画面とともに流れるタイトルコール。

コケールをウロウロし、出演者たちの安否を取れたところで、前作の印象的な山道シーンをロングカットで映しながら、エンディングへと向かう。

本作の最大な特徴は、タイトルコールとエンディングが絶妙で、鳥肌が立つ。もうこれ以上完璧なはじまりと終わりがないんじゃないかと思うくらい完璧なタイミングでしっかりはじまり、終わる。

 

ドキュメンタリータッチの映画と聞くと、つまんないイメージだが、本作は全くそんなことがない。観客が飽きないような様々な仕掛けがされている。

ちょっとだんまりし出したときにうまく流れる音楽やちょっと興味深い人間のストーリー。ドキュメンタリータッチと豪語しながら、しっかり緻密に計算された脚本があるようであっという間に映画の幕が閉じた。

地震が起きて大変な自国を御構いなしで、ワールドカップの話題で尽きないイラン民や、地震で大勢の親戚が死んだのに、地震の次の日に籍を入れる若者など、映画として興味深いストーリーが四方八方に散らばっていた本作。

 

まさに大満足の一言。

 

びぇ!

イラン映画『友達のうちはどこ?』感想ネタバレ:6歳の男の子が宿題を返すためにいざ冒険へ出る

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EUROSPACE

こんちくわ!Shygonです!

今回はコケール・トリロジーの第1作目イラン映画

友達のうちはどこ?

について熱く語りたいと思います!

1987年製作の本作は、イランを象徴する映画監督アッバス・キアロスタミの作品です。

キアロスタミ監督は「桃色の味」でパルム・ドールに輝いた世界的に有名な巨匠。

 

あらすじ

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「友達のうちはどこ?( خانه دوست کجاست )」

イランのカスピ海の小さい村コケールに住む小学2年生のアハマッドくんは学校にしっかり通う可愛い男の子。

クラスの友達の宿題を間違えて持って帰ってきてしまったアハマッドくんは焦り始める。

宿題を忘れると激怒する先生に怯えるアハマッドくんは友達マネツァザくんにノートを返そうとする。

マネツァザくんが住んでいる隣町ポテシュにノートを返すため、お母さんに止められるもひとりで冒険に出ます。

峠を越えて隣接するポテシュ村。

さあ、いざ冒険に出発だ!!!

 

本作の感想や解説のみを知りたい方は イラン映画を読む。 のセクションを読み飛ばして下さい。

 

イラン映画を読む。

日本から遠く離れた国イラン。日本と程遠く世界を牽引するような巨大な国ではないので、どんな国なのか想像しにいくと思います。

長らく続く中東問題の影響からイランは危ない国だと思われがちです。隣国アフガニスタンの影響で場所によっては危ない場所もありますが、若干の注意レベルが引かれている程度です。

そんな日本とはあまり馴染みのない国イランの人々は一体どんな生活をしているのか?

 

イランを代表する巨匠アッバス・キアロスタミ監督はイランの日常を切り取り、一般の人々の生活を描くことに定評があります。

2016年に76歳で亡くなってしまいましたが、彼の作品はいまでも世界中に影響を与えています。日本の巨匠小津安二郎の影響を受けており、自身でも大ファンを公言しています。

小津安二郎の作品はこちら

www.shygon.com

 

6才の可愛い男の子の珍道中

 コケール・トリロジー

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EUROSPACE

中央アジアと東ヨーロッパの境界にある世界最大

の湖カスピ海。ロシアをはじめとする国が隣接し、コケールとポテシュというイランの小さな街が舞台の本作。

本作「友達のうちはどこ?」、「そして人生はつづく」、「オリーブの林をぬけて」の3部作を「コケールトリロジー」と呼ぶ。

3作すべてがコケールを舞台にイランの人々の生活を断片的に描き、この3部作がアッバス・キアロスタミ監督の名が世界に知られるきっかけとなりました。

その第1作目の「友達のうちはどこ?」は6才の可愛い男の子がただただ宿題を友達に返すため、ひたすら街をさまよう映画です。

 

 6才の可愛い男の子の冒険備忘録

85分の本編に、言語はペルシャ語。全くなにを言っているかわからないが、その魅力はひしひしと伝わってくる。

本作は85分ただひたすら宿題を返さなきゃと思い、街を駆け回る少年をカメラが追っかけただけです。人が死んだり、なにか事件が発生したりと映画の中での起承転結など一切ない。

イランの小さな村を舞台にひとりの男の子が走るシーンや小山をウロウロするシーン、友達ネマツァザはどこ?と街中の人に聞きまくるシーンのみ。

キアロスタミ監督が公言している通り、小津安二郎監督の影響をもろに受けているようなだんまりした穏やかなイランの日常を切り取っただけの映画になっている。

そんな一見つまらなそうな映画でも、観客を飽きさせないような仕組みが散りばめられており、楽しむことができた。

劇中で鳴り響くアラブ系の民族音楽がさらなる色を引き出し、映画を盛り上げる。小津安二郎の作品が好きなのであれば、好きになる映画だと思う。

小津安二郎監督自体も彼のキャリアはこんな少年の珍道中から始まった。1932年に製作された「大人の見る繪本生まれて見たけれども」は兄弟の子供の目線から日本の日常的な生活を映し出す。

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監督が名言していなかったので、実際にはわかりませんが、大人の見る繪本生まれて見たけれどを意識して製作しているのかなと若干思いました。

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85分ただひたすら町の往復を繰り返すアハマッドくん。通りかかるたびに大人たちに話しかけられ、そんな遠くにひとりで行くんじゃない!やめろ!と止められる。

本作は6歳の幼い男の子気持ちを代弁して描いたことから、イギリスの映画協会が選ぶ「14歳までに見ておきたい50の映画」に選出されるほど、子供の読む童話のようにストーリがあり、独特の世界観があるのだ。

 

通りかかるたびに大人たちにダル絡みされる無邪気な少年。

"大人の言うことは聞け"

この言葉が繰り返し出てくる本作。世界中の子供たちにそんなメッセージを本作は発信しているように思えるのである。

 

びぇ!

タイ映画『ブンミおじさんの森』感想ネタバレなし:人間の前世について説いてみる。

poster of Uncle Boonmee who can recall his past lives

Kick the Machine

こんちくわ!Shygonです!

今回はタイ映画として史上初の快挙を成し遂げた

ブンミおじさんの森

について熱く語りたいと思います!

2010年に公開した本作は、タイ映画としては史上初のカンヌ映画祭で最高賞にあたるパルムドールを受賞しました。

人間の前世などの幻想的な世界を独自の方法で表現した本作は、他の映画には絶対ない世界観から、世界中から絶賛を浴びました。

ただ本当に意味がわからない理解不能な映画なんですよ。なぜそんな映画が評価されたのかを少し掘り下げます。

 

あらすじ

タイ東北部。腎臓の病により死を前にしたブンミおじさん。後先長くないことを悟り、ある時死んだブンミの妻の妹・ジェンとその息子トンを自らの農園に呼ぶ。三人で食卓を囲んでいると、突然女性の幽霊が出現する。それこそが19年前に亡くなったブンミの妻・フエイだった。しばらくすると、今度は長年行方が分からなくなっていたブンミの息子・ブンソンが姿を変えて現れる。愛する者たちを取り戻したブンミは、4人で森の中に入っていく。

 (Wikipediaより抜粋)

 

タイ映画史上 初の快挙!!!

Uncle Boonmee who can recall his past lives

Kick the Machine

 アピチャートポン・ウィーラセータクンって?

監督を務めたのは、アピチャートポン・ウィーラセータクン。

もう長すぎて、絶対は?は?は?と繰り返したくなる長くて覚えづらい名前なので、みんな"Joe"と呼んでるらしいです。

 

ィーラセータクン監督は1970年にタイで生まれました。両親が医師であった彼は、タイでは最高峰の大学 コンケン大学を卒業後、アメリカに渡り、シカゴ美術附属美術大学に進学。

ザエリートコースを進む彼ですが、彼の作る映画は全く金にならないのです。インタビューで彼自身がこんなことを語っていました。

"毎回全身全霊で映画を作っても、広告やプロモーションで製作費が回収できない。"

Every time I release a movie, I lose money because of the advertising and promotion, so I'm not sure if it's worth it, even though I would love to show it at home

なので、本作も製作費が回収できるか不透明だったため、商業映画ではかなり珍しい16ミリのフィルムでの撮影でした。

本作のパルムドール受賞の結果、世界中で関心を集め、2000万円ほどの興行収入を得たそうです。

最後に、短編映画のプロジェクトのとき、野火などで知られる塚本晋也監督とも親交があるようですね。

 

A man who can recall his past lives 

Uncle Boonmee who can recall his past lives

Kick the Machine

邦題は「ブンミおじさんの森」という映画ですが、いまいち内容が入って来ません。

本作の英題”Uncle Boonmee who can recall his past lives”です。タイ語の題名(ลุงบุญมีระลึกชาติ)は、筆者にとって文字なんかではなくて、子供の落書きのようなので、英題で意味を説きます。

 

作の背景はウィーラセータクン監督が読んだある一冊の本からはじまりました。

"A man who can recall his past lives"は人間のスピリチュアルな一面をタイ実在したの僧侶が書いた本です。

彼は自身の前世が見えると自身の著書で告白していました。ウィーラセータクン監督がその本に出会った時にはもうその僧侶は存命していなかったですが、その本から着想を得たそうです。

なので、本作では死期を悟ったブンミおじさんが亡くなったはずの亡き妻や息子に出会うのです。

 

前世や自然を取り巻く幻想的な世界

Uncle Boonmee who can recall his past lives

Kick the Machine

病気のため、近いうちに自分が消えて無くなると感じたブンミおじさん。死期が近づくブンミおじさんには、死期以外に不思議なものが近づくのであった。

死んだはずの妻と亡くなったはずの息子。一生かけて愛した妻は、生前と変わらず綺麗な女性の霊として、ブンミおじさんの目の前に姿を現した。

それに対して、息子は猿にそっくり容姿で登場する。筆者にとってあれはゴリラにしか見えないが、そんなことはいまはどうでも良い。

 

舞台はラオス国境付近のタイ北部。壮大な森の中に生活するブンミおじさんの家には、自然の美しさと人間の内に秘めるスピリチュアルな幻想があたり一帯に広がる。

本作のテーマは、夢、自然、スピリチュアル的な人間の内なる部分、そして、性を描く。ウィーラセータクン監督自身がゲイであることも関連し、本作は普通の映画では絶対見ない経験を、たった映画一本だけでできるような気がする。

 

本作を観た後、これをどう言葉に起こすか必死に考えてみた。読者の皆さんに読んでもらうためには、不可解なあらすじや映画の解説をするべきなのだと思う。

でも、本作のあらすじだけを説明したブログはこのブログで説明するより、よく説明されたものがあったので、そちらをご覧下さい。

映画『ブンミおじさんの森』のネタバレあらすじ結末と感想 | MIHOシネマ

Uncle Boonmee who can recall his past lives

Kick the Machine

では本ブログではなにを語るのか。

僕は日々観た映画を通して、自分自身がどう思うのかや、その映画の裏にはどんなことが隠れているのかなどに焦点を当て、書くようにしている。

それを本作でもやろうとしても中々出来ない。本作を表現する言葉がまるで出てこないのである。

本作を批判しようとすればいくらでもできる。逆に褒めることもいとも簡単に出来てしまうと思う。

 

本作はタイの内情を痛烈に批判したとして、ウィーラセータクン監督はタイ国内で批判されたとインタビューで話していた。

でも、彼は一貫して、本作に対し、この映画は政治的な映画ではない。単なるひとりの人間の見える世界を描いた人情物語だ。とインタビューで語っている。

 

びぇ!

映画『わたし、ダニエルブレイク』感想ネタバレなし:イギリスの腐った雇用手当をケンローチはどう読むのか

poster of I Daniel Blake

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こんちくわ!Shygonです!

今回はパルム・ドール受賞作

わたし、ダニエルブレイク

について熱く語りたいと思います!

2017年に公開された本作は、イギリスの腐った実状をブラックジョークを含めて、描きます。

世界的巨匠ケン・ローチ監督は笑えるけど、実は笑えないブラックジョークで政府を痛烈に批判する作風で有名です。

 

あらすじ

イギリスに生まれて59年、ダニエル・ブレイクは実直に生きてきた。大工の仕事に誇りを持ち、最愛の妻を亡くして一人になってからも、規則正しく暮らしていた。ところが突然、心臓の病におそわれたダニエルは、仕事がしたくても仕事をすることができない。国の援助を受けようとするが、理不尽で複雑に入り組んだ制度が立ちはだかり援助を受けることが出来ず、経済的・精神的に追いつめられていく。そんな中、偶然出会ったシングルマザーのケイティとその子供達を助けたことから、交流が生まれ、お互いに助け合う中で、ダニエルもケイティ家族も希望を取り戻していくのだった。

(公式サイトより抜粋)

 

わたしはダニエルブレイクなんだよ

scene from movie I, Daniel Blake

eOne Films

イギリスの雇用支援金の申請をするダニエル・ブレイクを主人公に客観的にいまのイギリスの現状を斬り込む本作。

毎作新作を発表するたびに物議を醸し出すケン・ローチは、本作でカンヌ映画祭の最高賞にあたるパルムドールを受賞。

2006年に発表した「麦の穂を揺らす風」で初のパルムドールを受賞し、本作では2度目の受賞を果たしました。

社会を風刺する独特の作風は世界中に熱狂的なファンを有し、80歳超えたいまでさえも世界の最前線で活躍する。

scene from movie I, Daniel Blake

eOne Films

ひとつの特徴として、あまり有名な俳優を多用せず、じっくり俳優を選び抜擢することから、その選球眼も優れていることで有名。

本作も、主人公を演じたデイブ・ジョーンズはコメディアンであり、シングルマザーを演じたヘイリー・スクワイアーズが演じた。

双方とも、多少のドラマや映画の出演歴があるものの、有名とはかけ離れている存在であった。

英国アカデミー賞では、助演女優賞にヘイリー・スクワイアーズがノミネートされる快挙も果たしたのです。

 

華やかなイギリスの闇に斬り込む。

scene from movie I, Daniel Blake

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音声のみで伝わる受給手当の面接。心臓病を患う主人公は仕事に当面復帰できないため、支援が必要なのだ。

数分にわたる音声のみのシーンでさえ、飽きさせない。ときに、どれだけ国の支援が馬鹿げているかを露呈しているようにも見える。

 

不合格の通知を受け、すぐさま電話をするダニエルは

 

"たったたたったー、た、たったたたたったー"

 

の陽気な保留音が永遠に流れる続ける。モーツァルトの名曲さえも嫌いになるほどそのリピートを聴き続けること1時間48分、遂に電話が繋がった。

 

"待ったのは1時間48分だぞ!サッカーの試合より長いぜ!"

 

とまさにイギリスのブラックジョークを飛ばす。こんな感じのクスッと笑える、でも笑えない国の腐った状況をブラックジョークでバンバン伝えて行く。

 

時代とともに全ての行程がデジタル化に進む現代。そんな新たな時代に取り残された老人たち。ダニエルも大工として家は建ててるも、パソコン失読症なため、現代がデジタル派なのに対して、彼は鉛筆派。

scene from movie I, Daniel Blake

eOne Films

しぶりにケン・ローチ監督の仕掛ける仕掛けるの数々に魅了された2時間だったが、そのジョークの裏にはいまの現代の闇を投影している。

幼い子供を2人持つシングルマザーは、お金がないため、フードセンターの食べ物を隠し食べしたり、お店で日常品を万引きしたりしてしまう。

単純に物欲しさで万引きをするのではなく、生理用ナプキンなどの絶対必要な日常品が買えない。ミジメな自分に泣き崩れる母親ですが、子供達の前には決して見せれない大人の実状があるのです。

 

作はイギリスの腐った助成金のシステムや、本当に必要な人間に必要な物資が届いていないという実状を皮肉る映画です。こんなに現実は酷いのかと落胆してしまうほど、腐った日常が2時間映し出されます。

心臓病なのに、手当を貰えない老人は、必死に職を探さないといけない。元気で活発な子供がいるだけで、地元から追い出され、遠く離れた僻地へと飛ばされるシングルマザー。

社会派ドラマとして、本作を通してケン・ローチ監督の故郷をディスっているが、これも現実であるというところを忘れてはならない。

何度も申請しても通らない雇用手当。本当に必要な人に行き渡らないこのクソなシステムに頭きたダニエルブレイクは役所の壁に、突然落書きをする。

 

"わたし、ダニエルブレイク"

"飢える前に申し出て日を決めろ。"

"電話のクソなBGMも変えろ。"

 

I Daniel Blake.

Demand my appeal date before I starve

And change the shite music on the phone 

 

心臓病で仕事ができないのに、手当を貰えないひとりの老人。何度電話してもなり続けるクソなBGM。生まれてこれまで一度も法を犯したことがなかった彼がはじめて破った。法には触れるけど、市民の気持ちを代弁したようなこのスピーチは彼らの心に刺さったのであった。

scene from movie I, Daniel Blake

eOne Films

私たち大衆は007などの華やかしいイギリスの実状しか目を向けていないような気がするが、その裏にはそんな現状が広がっているということである。それはイギリスに限った話ではなく、世界共通して言えることなんです。

日本ではそんな日本社会をディスるような映画、音楽が極端に少ないような気がするが、映画や音楽でいまの日本を見直さないとどこで見直すのだと思わずツッコんでしまう。

 

たまに愛国心とはなにかとふと考えるときがある。アメリカにいると馬鹿みたいに自分の国に愛着があるアメリカ人とよく出会う。日本で日本国旗を掲げていると、あいつやべぇやつなのかな?っていう風習がある気がするが、アメリカでは逆になんで自国の国旗掲げないの?となる。(地域によるが)

 

ケン・ローチ監督はカンヌ映画祭で史上最多のパルム・ドール2度受賞したイギリスを代表する監督だが、彼はいつもなにかを風刺して批判する。

そして思う。彼も愛国心に溢れているのだと。人それぞれ方法はあると思うが、自国を批判できるやつがはじめて愛国心に溢れている人間なんだと。そんなことを思いながら、本作を自分のものにできた気がする。

映画『麦の穂を揺らす風』感想ネタバレ:アイルランド独立戦争によって引き裂かれる兄弟の切ない物語

poster of The Wind That Shakes The Barley

Sixteen Films

こんちくわ!Shygonです!

今回はアイルランド独立戦争について描かれた

麦の穂を揺らす風

について熱く語りたいと思います。

2006年に製作された本作は、アイルランド独立戦争を背景に、対立する兄弟を描く社会派ドラマです。

監督を務めたイギリスの巨匠ケン・ローチがカンヌ映画祭の最高賞にあたるパルム・ドールに輝いた歴史大作ドラマ。

2016年に「わたし、ダニエルブレイク」で2度目のパルム・ドールに輝き、史上最多タイの最高賞受賞監督になりました。

 

あらすじ

1920年、主人公のデミアンは医者で、アイルランドを離れてロンドンの病院で働こうとしていた。しかし、17歳の少年の殺害を含めて、日常的に起こるイギリス軍のアイルランド人に対する暴力を目の当たりにし、ロンドン行きを取りやめてIRAのメンバーとなり、ゲリラ戦に身を投じるようになる。

ある日、寝ていたところを他のメンバーもろとも逮捕されてしまう。デミアンの兄テディはIRAの重要なメンバーで、イギリス軍はテディを探していたのだった。アジトと武器の置き場所を聞き出そうと、テディを拷問するイギリス軍だが、聞き出せなかったため、全員を次の朝に処刑すると言い渡す。しかし、軍の中にいた協力者の手によって脱獄する。

脱獄したデミアンは、同志たちが拷問・処刑された原因となった密告者が幼馴染であることを知る。密告者の処刑命令を受け、それを実行したときから、デミアンは政治闘士として引き返せない一線を越えたのだった。

(Wikipediaより抜粋)

 

The Wind That Shakes The Barley

The Wind That Shakes The Barley

右から二番目 ケンローチ監督

80歳を超えてなお活躍する巨匠ケン・ローチが監督を務めました。脚本はローチ作品常連のポール・ラヴァーティが執筆。

本作のタイトル「麦の穂を揺らす風」は18世紀の詩人ロバート・ドワイヤー・ジョイシュの同名詩"The Wind That Shakes The Barley"から名付けられました。

本作に出演する俳優はほとんどがアイルランド出身の俳優で固められてます。ケン・ローチ監督の意向から、あまり有名な俳優を使わないことも特徴(わりと毎作そう)です。

The Wind That Shakes The Barley

(左)デミアン, (右)テディ

 デミアン・オドノヴァン

アイルランド出身の青年。大学では解剖学を学び医者として英軍に従軍。アイルランド人への差別を目の当たりにして、アイルランド独立戦争に参加を決意する。

キリアン・マーフィーが演じました。「ダークナイト」や「ダンケルク」など最近はクリストファー・ノーラン作品常連の売れっ子俳優。

 テディ・オドノヴァン

デミアンの兄貴。デミアン同様、祖国アイルランドに強い意志を持ち、アイルランド独立のため尽力を尽くす。

ポードリック・ディレニーが演じました。あまり有名ではない俳優ですが、仲間から信頼の厚いリーダーを熱演。X-MENのローガンみたいなタイプ。

ローガンの解説はこちら

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 ダン

The Wind That Shakes The Barley

Sixteen Films

生粋のアイルランド男児。アイルランドに対して並ならぬ誇りを持ち、デミアンに手を貸す。

リアム・カニンガムが演じます。「ゲームオブスローンズ」で知られるアイルランド出身の俳優で、僕の大好きな俳優のひとりなんです。

ゲームオブスローンズの解説はこちら 

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いまなお解決されない北アイルランド問題

2016年イギリスがEUから離脱することが発表されました。ヨーロッパをひとつの巨大な経済圏として、世界的に影響力を持つ欧州連合から予想外の離脱発表でした。

移民の受け入れに寛容なEUの政策や、関税が撤廃されたせいで、国内の一部の業界に多大な大打撃を受けていたのです。

の一連の騒動はブレグジット(brexit)と呼ばれ、Britishとexitの造語です。

2019年の3月を期限にどのような形で、イギリスがEUから脱退をするのかイギリス国内で活発に議論されてきました。

議会での討論でも、中々結論が出なかったのです。

その大きな要因が、北アイルランド問題でした。ニュースなどをみて、あの時期はよく耳にする単語でしたが、いまいちよくわからない。

The Wind That Shakes The Barley

Sixteen Films

れはイギリスとアイルランドの間で長らく続いた独立戦争があったからです。歴史的背景からも、アイルランドとイギリスの関係はずっと前から問題視されていました。その両国の独立騒動の発端が本作では描かれます。

 

1920年代、第一次世界大戦が終了後。アイルランドに対するイギリスの対応に不満を持った一部の集団が兵を挙げました。アイルランド独立戦争が勃発し、見事独立を勝ち取りました。

アイルランドを一国の国として認めたはずだったのですが、その平和条約は独立とは程遠いものだったのです。その後、アイルランド国内で内戦が勃発。その歴史を本作で描かれます。

 

国の存亡をかけ引き裂かれる兄弟の友情

ネタバレが含まれます。

キリアン・マーフィーの演技が凄まじすぎるんです。アイルランド人として、祖国のためにその命を捧げる青年を熱演しました。

そんな彼は、一度英軍に志願するも、そこでのアイルランド人への差別からIRA(アイルランド国防軍)に属し、祖国もために戦う決意。

 

条約に批准した後も、事態は一向に変わろうとしませんでした。アイルランドはイギリスから治外法権が認められ、独立国となります。

でも、それはイギリス政府による恐怖からの結果であり、本当にアイルランドが求めたものではなかったのです。4人に1人は失業者で、子供達はご飯もろくに食べれない。

 

英軍がアイルランドから撤廃後、兄テディは独立したことで国防軍に従事されることとなり、アイルランドのために戦うことを決意したのです。

一方、デミアンは依然続くイギリス政府のアイルランドへの干渉に納得せず、反政府軍として、国防軍と戦う決意をします。

 

両者ともアイルランドのことを想い、決断したことは変わらないはずなのに、国防軍と反政府軍にそれぞれ属し、兄弟間で対立が始まってしまいます。

 

ここで問う。デミアンのアイルランドへの忠誠心から行動した反政府軍は、夢想家なのか?それとも現実主義者だからこその決断なのか?

同じアイルランドへの忠誠を誓っても対立する兄弟。やがて事態は引けない状態にまで達してしまいます。

The Wind That Shakes The Barley

Sixteen Films

国アイルランドのためを想い、対立するふたりの兄弟。兄テディは自国のため、弟デミアンは理想のアイルランドを作り上げるためその身を捧げます。

デミアンは劇中の一部シーンでこんな言葉を残した。

 

"解剖学を5年間学んだ僕が、あるビジネスマンを撃たないといけない。"

"幼いころから知ってる17歳の少年をこの手で処刑しないといけない。"

"そんなことをする意味がこの戦争にはあるのであろうか?"

 

国の対立が発端で繰り広げられる独立戦争。それが集結しても、戦争など終わらなかった。条約に不満を漏らす反政府軍とアイルランド国防軍との対立が次に始まるのです。同じ同胞として、固い絆で結ばれた兄弟として一緒に理想のためその身を捧げてきたふたり。

 

弟デミアンは最後まで理想のアイルランドのため、屈服せず戦おうとします。兄テディは自国を守り抜くため国防軍の名のもとアイルランドを守り抜く覚悟をします。

最愛の兄弟間で敵同士の関係となってしまう。祖国アイルランドを独立させるという同じ目標を掲げるも、兄弟同士で殺し合いをする残酷さ。

The Wind That Shakes The Barley

Sixteen Films

作は、1920年代のアイルランド独立戦争とアイルランド内戦を舞台にある兄弟にスポットを当てた映画。

本作はフィクションであるが、フィクションと思わせないリアリティーと歴史の残酷さが脳裏に浮かぶ。

 

日本でも跡取りの問題から兄弟間の争いというのはよくあることです。愛している兄弟間で殺し合いをしないといけないその辛さと男としての理想の狭間にある苦渋の決断。

なぜ上手く兄弟で仲良く祖国のために尽力を尽くせないかと思ってしまうが、現実はそんなに甘い話ではないのだ。

 

弟はデミアンはアイルランド国防軍に楯突く形をとり、兄のいる国防軍に遂に捕まってしまう。

反政府軍の重要ポジションにいたデミアンを逃すことなど出来ない兄テディは自らの手で弟を処刑することを選ぶ。

 

処刑を執行される当日。最愛の妻に最後の手紙を残し、太陽が登る朝、死刑場まで歩くデミアン。

太陽の日が差し込む街中はそんな残酷なことがこれから行われようとしていることなど知らない。

縄で腕を締め付けられたデミアンはこれまでの人生を思いふけるように、太陽を見上げる。

The Wind That Shakes The Barley

Sixteen Films

自分の最期待つように歯を食いしばるデミアン。辛いのは彼だけではない。これまでアイルランドのために一緒に戦ってきたテディも、涙を隠せずにいた。

これから弟を自らの手で下す。自分の号令で銃音が鳴り響く。

これまで戦ってきた同士として、最愛の弟として、涙が止まらないテディはついに発射準備を号令する。

銃音とともに崩れ落ちるデミアン。祖国アイルランドのために捧げたその身はこうして終わるのであった。

 

そんな国の存亡をかけ一緒に戦った兄弟の物語はこうして終わる。そんな残酷な話は本作に限ったことではなく、世界中にある話の一部であるということ。

戦争は人を変え、大切な人をも奪う。そんなものに意味があるのであろうか?そんなくだらないことを人類は続けて数千年。

いまだに今日でも世界中で繰り広げられる戦争に対する明らかな反戦の意を本作は示しているのである。

 

びぇ!

逃亡先のレバノンでも茨の道が続くカルロス・ゴーンのこれから

Carlos Ghosn in the court

drawn by Nobutoshi Katsuyama
遅すぎる明けましておめでとうございます。
 
2020年を迎え、日本では夏から東京オリンピックが開催されるため日本のみならず世界中から熱い視線が送られている。だがそんな記念となるこの年の新年はあまり歯切れのいいはじまりではなかった。
 
新年を迎えてすぐイランの実質No.2が米軍によって殺害され、世界中に緊張が走った。去年はあれほど中国に戦争を吹っ掛け世界中を貿易戦争に巻き込んだトランプ大統領はどうも休暇明けに喧嘩がしたくなるのだろうか。
 
思い返すと去年のゴールデンウィークが終わる直後から中国への締め付けを強くし、GW明けには株価が暴落した。そして大衆がNew Yearモードの最中、事件は起きた。
 
イランとアメリカの国力の圧倒的な差や、中国やロシアがイランのために身を切ってイランの援護する可能性は極めて低いことや両者が戦争を望んでいないことから戦争状態に発展することはないと思うが、2020年は波乱からはじまってしまった。
 
そんな国際的な緊張感に張り巡らされる中、日本では元日産CEOのカルロス・ゴーン氏(以下、ゴーン)が保釈中の身ながら日本から事実上の亡命したというニュースは流れ込んでくる。衝撃なニュースが続々と耳元に飛び込んでくるが、これらは全てここ一ヶ月以内に起こったことだ。
 
カルロス・ゴーンが逮捕されるまでの裏側からまるで映画のような物語性。この前代未聞の逃亡劇の裏側や腐敗した日本の司法が暴かれる社会派映画のようででもあり、映画を観ているような感覚でお読みください。
 
製作費は30億円を超える莫大な費用をつぎ込んだ話題の一作。
 
予告編はこの辺にしようやく本編の開始です。
 

事件の全容

物語の発端はフランスのマクロン大統領が経済相を務めていた2015年に遡る。フランス政府が30%の決議権(15%の株式しか保有してないが30%の決議権を持つ)を持つ自動車会社ルノーが日産・三菱の3社アライアンスの状況から統合する計画を持ちかけられ、ゴーンは最終的にこの計画に乗ることになる。
それをよく思わない日産の上層部(西川元社長など)は政府関係者と結託し、長年によるゴーンの会社私有化から特別背任法や金融取引法の違反容疑で逮捕。倒産寸前の日産をV字回復させたカリスマ経営者から一転犯罪者の身となったゴーン。
 
完全によそ者外国人の追い出しに成功し、ほっとした矢先に楽器ケースに潜って日本を脱出。トルコ経由で母国レバノンに逃亡した。絶体絶命の窮地から救った天才から、犯罪者にされ、国際指名手配中の逃亡犯となった。
 
レバノンと日本には犯罪者の受け渡し条約がないため、ゴーンが日本で再び裁判を受けるのは現実的ではなく、ゴーンは妻のキャロルさんと余生をレバノンで過ごすとされている。
 
保釈される際に支払った15億円の保釈金に加え、この逃亡劇のために16億がかかったとの一部報道でゴーンの資産はこの一年で4割ほどを失ったそうだ。生涯年収が平均3億円ほどと言われている中、一年弱で30億以上もの大金を使えるほどの資金力があり、行動力があるゴーンだからこその結果だろう。
 
 

なぜ逃亡に振り切ったのか

経営者として常に冷血でお金にとにかくうるさいことで有名なゴーンだが、自身の身の自由のためなら出費は厭わない。ではなぜこれほどまでに日本から脱出することを切望したのだろうか。
 
それは腐敗した日本の司法の現状と日産内部からの反旗の2つが挙げられる。日本の検察では99%が有罪判決されるという被疑者にとっては悲観的な事実と、シャワーが週2回などの基本的な人権が損なわれている実態がゴーンにとっては到底受け入れられることではなかったのだ。
 
 
妻のキャロルさんと昨年の11月の一度きりの電話を除くと接近すらが禁止されており、自宅には監視カメラが置かれ、訪問者の名簿提出も義務となっていた。さらにパソコンも事務所以外では使えず、他にもかなり厳しい条件が付け加えられていた。
 
妻とすら会えないのはあまりにもひどい仕打ちだと素人感覚で思ってしまうが、普通は不満をこぼして終わりである。だが、この男は違った。
 
数ヶ月に及ぶ入念な計画によりゴーンは関西空港からプライベートジェットの楽器ケースに身を隠し、見事日本脱出を果たした。
 
この脱出劇に関して本人は他の人に迷惑がかかるからと一切言及をしていないが、どうも妻キャロルさんがこの計画を水面下で進めていたらしい。
 

元グリーンベレーの謎の男

実際にゴーンを日本から脱出させたのは軍事関連会社の男が関与したと言われている。彼の名はマイケル・テイラー。どこにでもいるような名前であるが、その業界では知らない人のいない有名人であった。
 
グリーンベレー(米陸軍特殊部隊)出身の人物でFBIの特殊作戦に参加経験もあるという。この男の妻がレバノン人であり、彼もレバノンに従軍経験もあるためのこのツテを借りて計画を遂行したらしい。
 
彼は実際に日本各地の空港に実際に訪れ、抜け穴を探し、ゴーンの逃亡を手助けしたことになる。関空のプライベートジェットの監視はあまく、今回のような大きな楽器ケースはX線の検査を通れず、無法状態になっていたのだ。
 
 

これから

正直この脱出劇について、僕は逆に良かったと思っている。
 
理由は2つあり、日本の司法を見直すいい機会になるし、外国人との付き合い方について議論する機会が必然的に増えるからだ。さらにゴーンの裁判を日本でこのまま続けたとしても、彼の容疑を証明することが比較的難しいのと、最悪のシナリオとして彼が無罪を勝ち取り、日本の司法が恥を取るという結論もありうる。
 
まず発端になったルノーと日産・三菱の統合計画を阻止するためにゴーンを逮捕したという順序になっているため、証拠が不十分であり、彼が逃亡したことに安堵した関係者ももしかするといるかもしれない。
 
次は彼のこれからについて。
 
ではなぜ彼はレバノンを選んだのだろうか。
 
選択肢として他の2カ国も十分にありえるだろうが、最終的にレバノンを選んだ彼。フランスでは黄色ベスト運動の真っ最中であり、マクロン大統領(ルノーの統合話の際に仲違い)とも仲の悪いゴーンをマクロン大統領が歓迎するはずもなく、フランス説は消滅。次に考えられたのがブラジルだ。父親の仕事のためにブラジルで生まれ、幼少期を過ごした彼にとってブラジルという選択肢もある。
 
ブラジル説についてはあまり情報がないので、推測を述べます。ブラジルと日本には犯罪者の引き渡し条約(日本はアメリカと韓国の2国間のみ)が結ばれておらず、ブラジルの憲法5条には「いかなるブラジル人も引き渡してはならぬ」という決まりがある。
 
一見ブラジル説も可能性としてはありだが、犯罪者の受け渡しがないからといって不処罰にするのではない。日本に引き渡しをしないだけであり、ブラジル国内で裁判を受けることになるようだ。
 
実際に日本には30万人を超えるブラジル人が住んでいるため、日本との関係は悪くない。それほどの人間が日本にいると、犯罪者対処にに対する前例が豊富であり、レバノンと比べると身の保証については明白だ。
 
 
それに比べ、レバノン国民はゴーンのようにレバノンドリームを叶え、カリスマ的支持を受けるゴーンにとってレバノンこそがベストな国と言えるのだ。
 
彼はおそらくそう考えレバノンに逃亡することになったのだろうが、実際のところはどうなのか。レバノンではいま政府と富裕層の癒着が大問題になり、金融危機寸前を迎えている状況になっている。
 
長く続いた内戦から経済を安定させるため、商業銀行は富裕層に対して法外な利息を与え、不動産などの投資を助長させる。その資金を回収するために信用のない政府から金利で経済を回し、国を発展させていたのだ。
 
つまり、経済を安定的に循環させるために政府と一部の富裕層のみが経済をコントロールし、経済の底上げを促進する公共事業に投資が回らないため、大きな格差が問題になっている。
 
 
この記事によると1%がレバノン経済全体の25%を占めるというアメリカに次ぐ貧困格差が広がっているのだ。ゴーンのような富裕層には住みやすい国だが、隣国の情勢不安や国民の貧困が溜まってくるとゴーンのような富裕層が攻撃の的になる可能性もある。
 
そしてトドメを刺すかのように先日報道されたゴーンの父親は実は殺人者だったという事実。麻薬や金の密輸業者をしていたゴーンの父親はともにビジネスをしていた神父とのトラブルで銃殺をしてしまう。その後死刑判決を受けるも模範囚であったことやレバノンが内戦に突入したためブラジルに移り、ビジネスでその後大成功するのだ。
 
 
これまで父親について多く語って来なかったのはそんな裏があった。だが父親にしろ息子ゴーンにしろ、手段を選ばずに目標まで突き進むのに長けていたのだろうか。
 
近くに位置するイラクでも貧困層の若者が暴徒化し、フランスでは年間行事のようにデモが頻発。香港でも大規模なデモが起こっていることを踏まえると、それらの状況がレバノン国内で知れ渡ると同様なことに発展してもおかしくない。なぜならいま先に挙げた2カ国のデモのテーマが格差と貧困だからだ。
 
ベイルート国際空港でレバノン大統領ゴーンは面会していたようだが、いつまでもレバノンがゴーンを匿うという保証はどこにもない。レバノン政府にとってゴーンがお荷物になると切ることは十分に考えられる。ゴーンの他にも様々な理由で母国から逃亡を余儀なくされている人はどうなのか。
 
ウィキリークス創設者のアサンジも英国エクアドル大使館に匿ってもらっていたところ、数々の奇行が原因で英国警察に昨年4月に逮捕され、これからアメリカに送還される予定だ。
 
反米左派のエクアドルを選んだアサンジに、ロシアに亡命したスノーデン。日本をはじめとする西洋諸国を完全に敵に回したゴーンの選択は吉とでるのか。その運命を決めるひとつの要素がヒズボラだ。
 
ヒズボラはレバノンの政治・武装組織であり、アメリカや日本などの西洋諸国からはテロ組織指定されている。イスラム教シーア派であり、同じくシーア派が国民の大半であるイランやシリアから支援を受けている。
 
これから日本とレバノンとの関係悪化は現実的に考えにくいが、先日ヒズボラの最高指導者が対米のためにイランへ支援をすると公式に宣言したため、これからはさらなる対立が予想される。
 
日産内部のクーデターから始まったゴーン騒動。保釈後に前代未聞の逃亡劇を繰り広げ、世界を強振させ、さらに対米への報復をなんとしても成し遂げたいイランや民兵組織。主要国の中では、日本はイランとの関係は良好であり、誰も戦争は望んでいない。
 
米中の貿易戦争が引き金となり溝が深まる対アメリカの構図。それを追うようにイランと衝突をはじめるアメリカ。衝撃的な大統領選から4年。トランプ大統領は問題が山積み状態のまま2度目の選挙に突っ込んでいくようだが、事態は暗中模索のままだ。

トイレを使いたいと叫ぶホームレス、追い出そうとするカフェ

homeless people sitting on chair at cafe

顔を見上げきれないほどの高層ビルが立ち並び、多くの人でごった返すサンフランシスコ。北カリフォルニアの長閑な田舎街に住む僕にとっては普段の生活からは想像もできない数の人とモノに溢れるこの大都市に毎度驚かされる。

AppleやGoogleなどいまをときめくIT企業が密集するシリコンバレーなどで知られ、街を歩けば自分が浮いていることを毎回痛感させられる。自然豊かな田舎街でほぼ隠居生活をする人間に居場所なんて無いぞ?そう言われている氣がするほど、アメリカの大都市は敷居が高い。

サングラスにブランド物のバックを垂らし、まるで街中がランウェイなのかと勘違いするほど、歩いている人はモデルのようで、ここでも僕みたいな人間には入場制限がかかってしまっているようだ。

今回は田舎者が世界有数の大都市に行ったらどうなるかなどというYoutubeの企画ではなく、僕が感じたことを書き残しておく。

 

これは田舎感丸出しの小僧がイキってカフェでパソコン作業をしようとした矢先に起きた話である。カフェでゆっくり腰掛けながらパソコンを開いていると、黒人のホームレスの人がレジの前で何かを叫んでいた。

よく聞いてみると、「トイレを貸せ!」とカフェの従業員に怒鳴り散らし、取っ組み合いの大げんかに発展していた。ボロボロのビニール袋を指差しながら、着替える場所がないから、トイレで着替えたいんだよ、だからトイレを貸せというのが彼の主張らしい。

 

だが、カフェ側は何かを買わないとカフェのトイレは使わせないから、出て行け。そう主張している。その男性の白Tシャツは原型を留めてないほど汚れており、色んなモノが詰まったビニール袋に両手が塞がれ、肩には大きなスピーカーが吊るされていた。

アメリカに住んだことがある人間でなくても、すぐにわかる典型的なホームレスの格好をしており、彼らのような人たちに店を使わせないために、トイレには暗証番号が必要で、その度に従業員に聞かないといけないようになっている。

場所にもよるが、アメリカではこの光景が割と普通であり、それほどホームレスが引き起こす問題に店が悩まされる。従業員が口で説得を試みても、埒が開かないので、マッチョな男従業員2人が力づくでそのホームレスを追い出そうとちょっとしたプロレスが開催されていた。

 

静粛なはずのカフェは一瞬にしてFワードが飛び交う異様な雰囲気にガラリと変わり、ほかの客たちはまるで何もなかったかのように透かした顔をしながら、平然を装いコーヒーを嗜む。一見心無い人達に見られがちだが、アメリカではこの光景は至って普通なことであり、人々は毎度のようにそんな人間に構ってられない。

そして、ホームレスは決まって黒人であり、ボロボロの服装をして、なぜか必ずデカいスピーカーを持っている。白人やヒスパニックのホームレスでスピーカーを持ってる人はあまりいないのに、黒人は決まってデカいスピーカーを持ち歩く。自宅を持たない放牧民のような生活をする彼らにとって荷物をいかに減らすかは重要な問題なはずなのに、スピーカーは必須リストにあるようだ。

世界を動かす巨大IT企業が挙って集まる魅力的で先進的な街である反面、サンフランシスコが抱える闇はほど知れない。全米でも有数のホールレスが存在する街であり、Forbesの調査によるとサンフラは全米主要都市の中で7番目にホームレスの数が多い。補足でホームレスの全米ランキングTop10のうち4都市がカリフォルニア州が占めており、世界をリードする州の隠れた闇が浮き彫りになっている。

表舞台では豪華な建物に華奢な服装に身を包まれた一部の人間が生活するが、少し裏舞台をのぞいてみると、そこにはあたり一面に広がる無法地帯と悪臭が漂ってくる。最近に日本では薬物関連で芸能人が軒並み摘発されているが、ドラックが社会を悩ましているのは日本に限らずアメリカも変わらないことなのかもしれない。

 

芸能人をはじめ一般人にも麻薬の逮捕劇が連日メディアを沸かしているようだが、私たちが思う以上にドラックは生活の一部にまで浸透しているのかもしれない。そんなことをふと思いながら、久しぶりに遥々日本から来た父親が横で大きな音を鳴らしながら眠っている。

そんな何もないあたりが静寂な午前3時。Meek Millの『Dreams and Nightmares』を聴きながら寝床につこうとするが、まだ眠れそうもない。静粛な場所のカフェで大きな物音を立てて騒ぐ低所得者の人間はいつも決まって大衆の敵になり、生きる場所を探し求めて、僕がこうしてホテルで寝床につこうとしている時にも、凍える寒さの外でウロウロしているのだろうか。

そんなことを頭の片隅に置きながら、人間がゴミに見えるほどの高さから傍観している。これこそまさにSeen my dreams unfold, nightmares come true

映画『バーンアフターリーディング』感想ネタバレ:豪華な俳優陣が繰り広げるどんちゃん騒ぎ祭り!!!

the poster of burn after reading

Focus Pictures

こんちくわ!Shygonです!

今回はコーエン兄弟のコメディ

バーンアフターリーディング

について熱く語りたいと思います!

2008年に製作された本作は不当な理由でCIAから解雇された中年男から始まるドタバタ劇です。

全米で本作が公開されると瞬く間に評判を呼び、コーエン兄弟史上最高収益(当時)を記録しました。

 

あらすじ

アメリカのCIAで分析官として働くコグバーン・コックスは突然アルコール依存症を理由に左遷を言い渡される。

それを不当に思った彼は退職し、その仕返しのためにCIAの内部を描く暴露本の執筆を始める。

高身長でイケメンのハリー・ファラーは連邦保安官として働く。しかし、彼の裏の顔は出会い系にハマり、不倫ばかりをする生活をを続けていた。

リンダ・リツキはスポーツジムで働く中年女性。美容整形をすればいい男と結婚できると信じている。

コックスの書いた暴露本が思わぬ場所でリンダへ流出し、彼女は金を脅し取ろうとする。

CIAの暴露本が流出したのをきっかけに思わぬ方向に物語は進行し、これまできちんと噛み合っていた歯車が徐々に狂い始める‥

コーエン兄弟が仕掛ける ブラックジョーク満載の曇天返し映画!!!

 

豪華キャストだから出来たことだよね?

 コーエン兄弟とは?

本作はコーエン兄弟作品にとって7年ぶりのオリジナル脚本をもとに映画化されたものです。

コーエン兄弟独特の本編全体に行き渡る不穏な雰囲気、そして笑えずにはいれない数々のブラックジョーク。本作はコーエン兄弟を代表する作品のひとつです。

これまで「ノーカントリー」「ファーゴ」など名作から「バスターのバラード」や「トゥルーグリット」などの西部劇を手掛ける現代を代表する巨匠。

一風変わった西部劇をコーエン兄弟が描く

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 コグバーン・コックス

main character from burn after reading

Focus Pictures

CIAを不当に解雇され、暴露本を執筆し出す。ジョン・マルコビッチが頑固なもの難しい老人を演じる。

 ハリー・ファラー

main character from burn after reading

Focus Pictures

連邦保安官として働く中年イケメン。でも裏では出会い系サイトで不倫を続ける。ザイケメン ジョージ・クルーニーが最低男を演じます。

このキャラクター本当におかしいんですよ!超イケメンが夜な夜なキモい性器具を作ったり、見た目とは裏腹に引くような性癖とボンクラさを掛け持つ。

 リンダ・リツキ

スポーツジムで働く中年女性。整形費用を建て替えるために、コックスを脅し、金を盗み取ろうとする。「スリービルボード」のフランシス・マクドーマンドが演じます。

 オスカーを受賞したマクドーマンド代表作はこちら

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 脇を締めるA-list俳優たちを忘れないで!

上記の主なキャラクターを演じる俳優だけでとても豪華な俳優陣ですが、それだけでは満足しません。

ブラッド・ピット、ティルダ・ウィンストン、「ララランド」のJ.K シモンズ、「シェイプオブウォーター」のリチャード・ジェイキンズなど脇役だけでもひとつの映画が撮れるほど豪華です。

 伝説のミュージカル映画「ララランド」はこちら

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 怪獣と中年女性のラブストーリーはこちら

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いくら画面が切り替わっても出てくるのは有名俳優ばかり。人件費が一体何パーセント占めているのかと不思議に思うほど、他に金がかかるところがない。本作は有名俳優たちが巻き込まれるどんちゃん騒ぎをただ映しているだけなんです。

映画をみているというよりは、アメリカのセレブリティたちが集まってバラエティ番組を撮るのとあんまり変わんないんですよ!!!

 

コーエン節炸裂!!!

young brad pitt acting as gym trainer at the gym from movie burn after reading

Focus Pictures

アメリカには世界を代表する監督がたくさんいますが、コーエン兄弟が1番アメリカっぽい映画を撮っているように思えます。

アメリカに住んでいるからそこのアクセントの違いやアメリカ人だから通じるジョークが本編には満遍なく散りばめられています。

エンティン・タランティーノ監督もアメリカっぽい映画を撮っていますが、彼とは一味違うテイストを描くのが彼らです。

本作では元CIAの馬鹿げた発想からどんどん思わぬ方向に転げ落ちてゆき、最後に取り返しのつかない結末を迎えます。

そんな転落する人生をまるで人をからかっているかのように観客を笑わせ、コミカルに物語を包み込みます。

でも見終わった後に感じる空虚感とともに、シリアスなアメリカの現状を同時に描きます。!!!

単なる本編はブラックコメディですが、同時に笑った後に苦い味が舌に残るような映画です。

コーエン兄弟作品常連の作曲家カーター・バーウェルは本作の作曲をするときに臨場感を出すために日本の和太鼓の音から着想を得たそうです。本編で感じるあの不気味なテンポは和太鼓の音だったんですね。

びぇ!

  • 本作に関連する映画はこちら

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映画『トゥルーグリット』感想ネタバレ:復讐に燃える少女と酒浸りの保安官を描く西部劇

 

poster of true grit(Coen version)

Skydance Productions

こんちくわ!Shygonです!

今回はコーエン兄弟の西部劇

トゥルーグリット

について熱く語りたいと思います!

2010年に製作された本作は、父を殺された14歳の少女が犯人に復讐するため酒浸りの老人保安官と旅に出る西部劇です。

監督・脚本をコーエン兄弟が務め、製作総指揮にスティーブン・スピルバーグが名を連ねます。

 

あらすじ

舞台はアメリカ中部アーカンソー州。

14歳の幼い少女マティ・ロスは牧場を経営していた父が使用人のトム・チェイニーに殺され、馬と金貨を盗まれた。

復讐に燃えるマティはチェイニー討伐のために街の保安官マーシャル・コグバーンに助けを依頼した。

彼は腕利きと街では評判だが、酒浸りで盗みをしでかす保安官。

仲間にテキサスレンジャーズの一員であるラ・ビーフも加わり3人でチェイニーを追うが‥

 

コーエン兄弟とその仲間たち

 コーエン兄弟

現代を代表する巨匠で、ほぼ全ての映画を兄弟でこなして、監督・脚本も共同で行います。「ノーカントリー」「ファーゴ」など有名作から、2018年Netflix製作の一風変わった西部劇「バスターのバラード」まで多種多様。

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 マーシャル・コグバーン

main character from movie true grit

Skydance Productions

酒浸りの老人保安官。とにかくお喋りでつまらない話を淡々とする。

俳優ジェフ・ブリッジスが演じます。これまで「クレイジーハート」「キングスマン2」「ホテルエルロワイヤル」に出演してきました。

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彼の役柄からごもった南部訛りの英語を話すので ま、あ、なにを言っているか本当にわかりません。英語字幕で見たのでギリついていけましたが、日本語字幕でもう一回見たいものですね。

 マティ・ロス

main character from movie true grit

Skydance Productions

父親が殺され復讐を誓う14歳の少女。

頭脳明晰で頭の回転が速く、大人相手でも口論には負けないほど。

ヘンリー・スタインフェルドが演じます。10000人を超える応募者の中から見事選ばれた彼女は歌手としても活躍。「ピッチパーフェクト」シリーズでおなじみ。

アニメVer.「スパイダーマン」の声優やトランスフォーマーのリブート版バンブルビー」でも主演を務める。

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 ラ・ビーフ

main character from movie true grit

Paramount Pictures

テキサスレンジャーの一員。

テキサスからはるばるチェイニーを追っている。

テキサスに物凄いプライドを持ち、ザ南部のアメリカ人って感じ。

マッド・デイモンが演じます。最近この人こんな役柄ばっかですけど、いい俳優さんですよ。

「ボーン」シリーズや「オーシャン」シリーズ、「グッドウィルハンティング旅立ち」など。

 

Shygon的批評

young girl and old guy riding houses

Skydance Productions

本作は1969年名作「勇気ある追跡」のリメイク映画です。往年のスター ジョン・ウェイン主演として有名ですが、そんな名作のリメイクなんてほぼ失敗します。

えば、2016年公開の「マグニフェセントセブン」は1960年公開の「荒野の七人」のリメイクでしたが、大失敗でした。例を挙げるとキリがないですが、リメイクされるような映画は名作ばかりです。

それを超えるようなリメイク映画は数少ないです。ですが、本作は原作と肩を並べるほど素晴らしい作品に出来上がったのではないかと思いました。

ェフ・ブリッジスが演じるどうしようもない酒浸りの老人はまさに当たり役でした。治安を守るべき保安官が酒に溺れ、盗みまでする、どうしようもないヤツですが、なぜか愛着心が湧いてきて、応援したくなるのです。

それに対してわずか14歳の少女が大人顔負けの口論で頭の回転がとにかく速い。でもまだ子供です。時々でる幼さや大人に背伸びしているような子供心がたまりませんね!

酒浸りの老人保安官に頭脳明晰の少女、ザ南部出身のプライド高きアメリカ人など魅力的なキャラクターが本作を盛り上げます。

見た目からは想像できないような二面性を持ち、常に映画を盛り上げてくれるキャラクター。

movie ture grit (old one)

Paramount Pictures

ジョン・ウェイン主演の「勇気ある追跡」はいまにまで残るほどの名作ですが、ジョン・ウェインの映画はどの映画もジョン・ウェインでしかないのです。それに比べて「トゥルーグリット」は感情豊かなキャラクターたちに色んな味が1つの映画に共存している気がします。

2010年に公開された本作は40年の月日を経てリメイクされましたが、どちらも時代に沿った描き方がされていてどっちも素晴らしい作品に出来上がったのではないかと思います。

びぇ!

 

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