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アメリカ在住大学生が映画を語るブログ

映画『わたし、ダニエルブレイク』感想ネタバレなし:イギリスの腐った雇用手当をケンローチはどう読むのか

poster of I Daniel Blake

eOne Films

こんちくわ!Shygonです!

今回はパルム・ドール受賞作

わたし、ダニエルブレイク

について熱く語りたいと思います!

2017年に公開された本作は、イギリスの腐った実状をブラックジョークを含めて、描きます。

世界的巨匠ケン・ローチ監督は笑えるけど、実は笑えないブラックジョークで政府を痛烈に批判する作風で有名です。

 

あらすじ

イギリスに生まれて59年、ダニエル・ブレイクは実直に生きてきた。大工の仕事に誇りを持ち、最愛の妻を亡くして一人になってからも、規則正しく暮らしていた。ところが突然、心臓の病におそわれたダニエルは、仕事がしたくても仕事をすることができない。国の援助を受けようとするが、理不尽で複雑に入り組んだ制度が立ちはだかり援助を受けることが出来ず、経済的・精神的に追いつめられていく。そんな中、偶然出会ったシングルマザーのケイティとその子供達を助けたことから、交流が生まれ、お互いに助け合う中で、ダニエルもケイティ家族も希望を取り戻していくのだった。

(公式サイトより抜粋)

 

わたしはダニエルブレイクなんだよ

scene from movie I, Daniel Blake

eOne Films

イギリスの雇用支援金の申請をするダニエル・ブレイクを主人公に客観的にいまのイギリスの現状を斬り込む本作。

毎作新作を発表するたびに物議を醸し出すケン・ローチは、本作でカンヌ映画祭の最高賞にあたるパルムドールを受賞。

2006年に発表した「麦の穂を揺らす風」で初のパルムドールを受賞し、本作では2度目の受賞を果たしました。

社会を風刺する独特の作風は世界中に熱狂的なファンを有し、80歳超えたいまでさえも世界の最前線で活躍する。

scene from movie I, Daniel Blake

eOne Films

ひとつの特徴として、あまり有名な俳優を多用せず、じっくり俳優を選び抜擢することから、その選球眼も優れていることで有名。

本作も、主人公を演じたデイブ・ジョーンズはコメディアンであり、シングルマザーを演じたヘイリー・スクワイアーズが演じた。

双方とも、多少のドラマや映画の出演歴があるものの、有名とはかけ離れている存在であった。

英国アカデミー賞では、助演女優賞にヘイリー・スクワイアーズがノミネートされる快挙も果たしたのです。

 

華やかなイギリスの闇に斬り込む。

scene from movie I, Daniel Blake

eOne Films

音声のみで伝わる受給手当の面接。心臓病を患う主人公は仕事に当面復帰できないため、支援が必要なのだ。

数分にわたる音声のみのシーンでさえ、飽きさせない。ときに、どれだけ国の支援が馬鹿げているかを露呈しているようにも見える。

 

不合格の通知を受け、すぐさま電話をするダニエルは

 

"たったたたったー、た、たったたたたったー"

 

の陽気な保留音が永遠に流れる続ける。モーツァルトの名曲さえも嫌いになるほどそのリピートを聴き続けること1時間48分、遂に電話が繋がった。

 

"待ったのは1時間48分だぞ!サッカーの試合より長いぜ!"

 

とまさにイギリスのブラックジョークを飛ばす。こんな感じのクスッと笑える、でも笑えない国の腐った状況をブラックジョークでバンバン伝えて行く。

 

時代とともに全ての行程がデジタル化に進む現代。そんな新たな時代に取り残された老人たち。ダニエルも大工として家は建ててるも、パソコン失読症なため、現代がデジタル派なのに対して、彼は鉛筆派。

scene from movie I, Daniel Blake

eOne Films

しぶりにケン・ローチ監督の仕掛ける仕掛けるの数々に魅了された2時間だったが、そのジョークの裏にはいまの現代の闇を投影している。

幼い子供を2人持つシングルマザーは、お金がないため、フードセンターの食べ物を隠し食べしたり、お店で日常品を万引きしたりしてしまう。

単純に物欲しさで万引きをするのではなく、生理用ナプキンなどの絶対必要な日常品が買えない。ミジメな自分に泣き崩れる母親ですが、子供達の前には決して見せれない大人の実状があるのです。

 

作はイギリスの腐った助成金のシステムや、本当に必要な人間に必要な物資が届いていないという実状を皮肉る映画です。こんなに現実は酷いのかと落胆してしまうほど、腐った日常が2時間映し出されます。

心臓病なのに、手当を貰えない老人は、必死に職を探さないといけない。元気で活発な子供がいるだけで、地元から追い出され、遠く離れた僻地へと飛ばされるシングルマザー。

社会派ドラマとして、本作を通してケン・ローチ監督の故郷をディスっているが、これも現実であるというところを忘れてはならない。

何度も申請しても通らない雇用手当。本当に必要な人に行き渡らないこのクソなシステムに頭きたダニエルブレイクは役所の壁に、突然落書きをする。

 

"わたし、ダニエルブレイク"

"飢える前に申し出て日を決めろ。"

"電話のクソなBGMも変えろ。"

 

I Daniel Blake.

Demand my appeal date before I starve

And change the shite music on the phone 

 

心臓病で仕事ができないのに、手当を貰えないひとりの老人。何度電話してもなり続けるクソなBGM。生まれてこれまで一度も法を犯したことがなかった彼がはじめて破った。法には触れるけど、市民の気持ちを代弁したようなこのスピーチは彼らの心に刺さったのであった。

scene from movie I, Daniel Blake

eOne Films

私たち大衆は007などの華やかしいイギリスの実状しか目を向けていないような気がするが、その裏にはそんな現状が広がっているということである。それはイギリスに限った話ではなく、世界共通して言えることなんです。

日本ではそんな日本社会をディスるような映画、音楽が極端に少ないような気がするが、映画や音楽でいまの日本を見直さないとどこで見直すのだと思わずツッコんでしまう。

 

たまに愛国心とはなにかとふと考えるときがある。アメリカにいると馬鹿みたいに自分の国に愛着があるアメリカ人とよく出会う。日本で日本国旗を掲げていると、あいつやべぇやつなのかな?っていう風習がある気がするが、アメリカでは逆になんで自国の国旗掲げないの?となる。(地域によるが)

 

ケン・ローチ監督はカンヌ映画祭で史上最多のパルム・ドール2度受賞したイギリスを代表する監督だが、彼はいつもなにかを風刺して批判する。

そして思う。彼も愛国心に溢れているのだと。人それぞれ方法はあると思うが、自国を批判できるやつがはじめて愛国心に溢れている人間なんだと。そんなことを思いながら、本作を自分のものにできた気がする。