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アメリカ在住大学生が映画を語るブログ

映画『麦の穂を揺らす風』感想ネタバレ:アイルランド独立戦争によって引き裂かれる兄弟の切ない物語

poster of The Wind That Shakes The Barley

Sixteen Films

こんちくわ!Shygonです!

今回はアイルランド独立戦争について描かれた

麦の穂を揺らす風

について熱く語りたいと思います。

2006年に製作された本作は、アイルランド独立戦争を背景に、対立する兄弟を描く社会派ドラマです。

監督を務めたイギリスの巨匠ケン・ローチがカンヌ映画祭の最高賞にあたるパルム・ドールに輝いた歴史大作ドラマ。

2016年に「わたし、ダニエルブレイク」で2度目のパルム・ドールに輝き、史上最多タイの最高賞受賞監督になりました。

 

あらすじ

1920年、主人公のデミアンは医者で、アイルランドを離れてロンドンの病院で働こうとしていた。しかし、17歳の少年の殺害を含めて、日常的に起こるイギリス軍のアイルランド人に対する暴力を目の当たりにし、ロンドン行きを取りやめてIRAのメンバーとなり、ゲリラ戦に身を投じるようになる。

ある日、寝ていたところを他のメンバーもろとも逮捕されてしまう。デミアンの兄テディはIRAの重要なメンバーで、イギリス軍はテディを探していたのだった。アジトと武器の置き場所を聞き出そうと、テディを拷問するイギリス軍だが、聞き出せなかったため、全員を次の朝に処刑すると言い渡す。しかし、軍の中にいた協力者の手によって脱獄する。

脱獄したデミアンは、同志たちが拷問・処刑された原因となった密告者が幼馴染であることを知る。密告者の処刑命令を受け、それを実行したときから、デミアンは政治闘士として引き返せない一線を越えたのだった。

(Wikipediaより抜粋)

 

The Wind That Shakes The Barley

The Wind That Shakes The Barley

右から二番目 ケンローチ監督

80歳を超えてなお活躍する巨匠ケン・ローチが監督を務めました。脚本はローチ作品常連のポール・ラヴァーティが執筆。

本作のタイトル「麦の穂を揺らす風」は18世紀の詩人ロバート・ドワイヤー・ジョイシュの同名詩"The Wind That Shakes The Barley"から名付けられました。

本作に出演する俳優はほとんどがアイルランド出身の俳優で固められてます。ケン・ローチ監督の意向から、あまり有名な俳優を使わないことも特徴(わりと毎作そう)です。

The Wind That Shakes The Barley

(左)デミアン, (右)テディ

 デミアン・オドノヴァン

アイルランド出身の青年。大学では解剖学を学び医者として英軍に従軍。アイルランド人への差別を目の当たりにして、アイルランド独立戦争に参加を決意する。

キリアン・マーフィーが演じました。「ダークナイト」や「ダンケルク」など最近はクリストファー・ノーラン作品常連の売れっ子俳優。

 テディ・オドノヴァン

デミアンの兄貴。デミアン同様、祖国アイルランドに強い意志を持ち、アイルランド独立のため尽力を尽くす。

ポードリック・ディレニーが演じました。あまり有名ではない俳優ですが、仲間から信頼の厚いリーダーを熱演。X-MENのローガンみたいなタイプ。

ローガンの解説はこちら

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 ダン

The Wind That Shakes The Barley

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生粋のアイルランド男児。アイルランドに対して並ならぬ誇りを持ち、デミアンに手を貸す。

リアム・カニンガムが演じます。「ゲームオブスローンズ」で知られるアイルランド出身の俳優で、僕の大好きな俳優のひとりなんです。

ゲームオブスローンズの解説はこちら 

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いまなお解決されない北アイルランド問題

2016年イギリスがEUから離脱することが発表されました。ヨーロッパをひとつの巨大な経済圏として、世界的に影響力を持つ欧州連合から予想外の離脱発表でした。

移民の受け入れに寛容なEUの政策や、関税が撤廃されたせいで、国内の一部の業界に多大な大打撃を受けていたのです。

の一連の騒動はブレグジット(brexit)と呼ばれ、Britishとexitの造語です。

2019年の3月を期限にどのような形で、イギリスがEUから脱退をするのかイギリス国内で活発に議論されてきました。

議会での討論でも、中々結論が出なかったのです。

その大きな要因が、北アイルランド問題でした。ニュースなどをみて、あの時期はよく耳にする単語でしたが、いまいちよくわからない。

The Wind That Shakes The Barley

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れはイギリスとアイルランドの間で長らく続いた独立戦争があったからです。歴史的背景からも、アイルランドとイギリスの関係はずっと前から問題視されていました。その両国の独立騒動の発端が本作では描かれます。

 

1920年代、第一次世界大戦が終了後。アイルランドに対するイギリスの対応に不満を持った一部の集団が兵を挙げました。アイルランド独立戦争が勃発し、見事独立を勝ち取りました。

アイルランドを一国の国として認めたはずだったのですが、その平和条約は独立とは程遠いものだったのです。その後、アイルランド国内で内戦が勃発。その歴史を本作で描かれます。

 

国の存亡をかけ引き裂かれる兄弟の友情

ネタバレが含まれます。

キリアン・マーフィーの演技が凄まじすぎるんです。アイルランド人として、祖国のためにその命を捧げる青年を熱演しました。

そんな彼は、一度英軍に志願するも、そこでのアイルランド人への差別からIRA(アイルランド国防軍)に属し、祖国もために戦う決意。

 

条約に批准した後も、事態は一向に変わろうとしませんでした。アイルランドはイギリスから治外法権が認められ、独立国となります。

でも、それはイギリス政府による恐怖からの結果であり、本当にアイルランドが求めたものではなかったのです。4人に1人は失業者で、子供達はご飯もろくに食べれない。

 

英軍がアイルランドから撤廃後、兄テディは独立したことで国防軍に従事されることとなり、アイルランドのために戦うことを決意したのです。

一方、デミアンは依然続くイギリス政府のアイルランドへの干渉に納得せず、反政府軍として、国防軍と戦う決意をします。

 

両者ともアイルランドのことを想い、決断したことは変わらないはずなのに、国防軍と反政府軍にそれぞれ属し、兄弟間で対立が始まってしまいます。

 

ここで問う。デミアンのアイルランドへの忠誠心から行動した反政府軍は、夢想家なのか?それとも現実主義者だからこその決断なのか?

同じアイルランドへの忠誠を誓っても対立する兄弟。やがて事態は引けない状態にまで達してしまいます。

The Wind That Shakes The Barley

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国アイルランドのためを想い、対立するふたりの兄弟。兄テディは自国のため、弟デミアンは理想のアイルランドを作り上げるためその身を捧げます。

デミアンは劇中の一部シーンでこんな言葉を残した。

 

"解剖学を5年間学んだ僕が、あるビジネスマンを撃たないといけない。"

"幼いころから知ってる17歳の少年をこの手で処刑しないといけない。"

"そんなことをする意味がこの戦争にはあるのであろうか?"

 

国の対立が発端で繰り広げられる独立戦争。それが集結しても、戦争など終わらなかった。条約に不満を漏らす反政府軍とアイルランド国防軍との対立が次に始まるのです。同じ同胞として、固い絆で結ばれた兄弟として一緒に理想のためその身を捧げてきたふたり。

 

弟デミアンは最後まで理想のアイルランドのため、屈服せず戦おうとします。兄テディは自国を守り抜くため国防軍の名のもとアイルランドを守り抜く覚悟をします。

最愛の兄弟間で敵同士の関係となってしまう。祖国アイルランドを独立させるという同じ目標を掲げるも、兄弟同士で殺し合いをする残酷さ。

The Wind That Shakes The Barley

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作は、1920年代のアイルランド独立戦争とアイルランド内戦を舞台にある兄弟にスポットを当てた映画。

本作はフィクションであるが、フィクションと思わせないリアリティーと歴史の残酷さが脳裏に浮かぶ。

 

日本でも跡取りの問題から兄弟間の争いというのはよくあることです。愛している兄弟間で殺し合いをしないといけないその辛さと男としての理想の狭間にある苦渋の決断。

なぜ上手く兄弟で仲良く祖国のために尽力を尽くせないかと思ってしまうが、現実はそんなに甘い話ではないのだ。

 

弟はデミアンはアイルランド国防軍に楯突く形をとり、兄のいる国防軍に遂に捕まってしまう。

反政府軍の重要ポジションにいたデミアンを逃すことなど出来ない兄テディは自らの手で弟を処刑することを選ぶ。

 

処刑を執行される当日。最愛の妻に最後の手紙を残し、太陽が登る朝、死刑場まで歩くデミアン。

太陽の日が差し込む街中はそんな残酷なことがこれから行われようとしていることなど知らない。

縄で腕を締め付けられたデミアンはこれまでの人生を思いふけるように、太陽を見上げる。

The Wind That Shakes The Barley

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自分の最期待つように歯を食いしばるデミアン。辛いのは彼だけではない。これまでアイルランドのために一緒に戦ってきたテディも、涙を隠せずにいた。

これから弟を自らの手で下す。自分の号令で銃音が鳴り響く。

これまで戦ってきた同士として、最愛の弟として、涙が止まらないテディはついに発射準備を号令する。

銃音とともに崩れ落ちるデミアン。祖国アイルランドのために捧げたその身はこうして終わるのであった。

 

そんな国の存亡をかけ一緒に戦った兄弟の物語はこうして終わる。そんな残酷な話は本作に限ったことではなく、世界中にある話の一部であるということ。

戦争は人を変え、大切な人をも奪う。そんなものに意味があるのであろうか?そんなくだらないことを人類は続けて数千年。

いまだに今日でも世界中で繰り広げられる戦争に対する明らかな反戦の意を本作は示しているのである。

 

びぇ!