Movie Magic

アメリカ在住大学生が映画を語るブログ

逃亡先のレバノンでも茨の道が続くカルロス・ゴーンのこれから

Carlos Ghosn in the court

drawn by Nobutoshi Katsuyama
遅すぎる明けましておめでとうございます。
 
2020年を迎え、日本では夏から東京オリンピックが開催されるため日本のみならず世界中から熱い視線が送られている。だがそんな記念となるこの年の新年はあまり歯切れのいいはじまりではなかった。
 
新年を迎えてすぐイランの実質No.2が米軍によって殺害され、世界中に緊張が走った。去年はあれほど中国に戦争を吹っ掛け世界中を貿易戦争に巻き込んだトランプ大統領はどうも休暇明けに喧嘩がしたくなるのだろうか。
 
思い返すと去年のゴールデンウィークが終わる直後から中国への締め付けを強くし、GW明けには株価が暴落した。そして大衆がNew Yearモードの最中、事件は起きた。
 
イランとアメリカの国力の圧倒的な差や、中国やロシアがイランのために身を切ってイランの援護する可能性は極めて低いことや両者が戦争を望んでいないことから戦争状態に発展することはないと思うが、2020年は波乱からはじまってしまった。
 
そんな国際的な緊張感に張り巡らされる中、日本では元日産CEOのカルロス・ゴーン氏(以下、ゴーン)が保釈中の身ながら日本から事実上の亡命したというニュースは流れ込んでくる。衝撃なニュースが続々と耳元に飛び込んでくるが、これらは全てここ一ヶ月以内に起こったことだ。
 
カルロス・ゴーンが逮捕されるまでの裏側からまるで映画のような物語性。この前代未聞の逃亡劇の裏側や腐敗した日本の司法が暴かれる社会派映画のようででもあり、映画を観ているような感覚でお読みください。
 
製作費は30億円を超える莫大な費用をつぎ込んだ話題の一作。
 
予告編はこの辺にしようやく本編の開始です。
 

事件の全容

物語の発端はフランスのマクロン大統領が経済相を務めていた2015年に遡る。フランス政府が30%の決議権(15%の株式しか保有してないが30%の決議権を持つ)を持つ自動車会社ルノーが日産・三菱の3社アライアンスの状況から統合する計画を持ちかけられ、ゴーンは最終的にこの計画に乗ることになる。
それをよく思わない日産の上層部(西川元社長など)は政府関係者と結託し、長年によるゴーンの会社私有化から特別背任法や金融取引法の違反容疑で逮捕。倒産寸前の日産をV字回復させたカリスマ経営者から一転犯罪者の身となったゴーン。
 
完全によそ者外国人の追い出しに成功し、ほっとした矢先に楽器ケースに潜って日本を脱出。トルコ経由で母国レバノンに逃亡した。絶体絶命の窮地から救った天才から、犯罪者にされ、国際指名手配中の逃亡犯となった。
 
レバノンと日本には犯罪者の受け渡し条約がないため、ゴーンが日本で再び裁判を受けるのは現実的ではなく、ゴーンは妻のキャロルさんと余生をレバノンで過ごすとされている。
 
保釈される際に支払った15億円の保釈金に加え、この逃亡劇のために16億がかかったとの一部報道でゴーンの資産はこの一年で4割ほどを失ったそうだ。生涯年収が平均3億円ほどと言われている中、一年弱で30億以上もの大金を使えるほどの資金力があり、行動力があるゴーンだからこその結果だろう。
 
 

なぜ逃亡に振り切ったのか

経営者として常に冷血でお金にとにかくうるさいことで有名なゴーンだが、自身の身の自由のためなら出費は厭わない。ではなぜこれほどまでに日本から脱出することを切望したのだろうか。
 
それは腐敗した日本の司法の現状と日産内部からの反旗の2つが挙げられる。日本の検察では99%が有罪判決されるという被疑者にとっては悲観的な事実と、シャワーが週2回などの基本的な人権が損なわれている実態がゴーンにとっては到底受け入れられることではなかったのだ。
 
 
妻のキャロルさんと昨年の11月の一度きりの電話を除くと接近すらが禁止されており、自宅には監視カメラが置かれ、訪問者の名簿提出も義務となっていた。さらにパソコンも事務所以外では使えず、他にもかなり厳しい条件が付け加えられていた。
 
妻とすら会えないのはあまりにもひどい仕打ちだと素人感覚で思ってしまうが、普通は不満をこぼして終わりである。だが、この男は違った。
 
数ヶ月に及ぶ入念な計画によりゴーンは関西空港からプライベートジェットの楽器ケースに身を隠し、見事日本脱出を果たした。
 
この脱出劇に関して本人は他の人に迷惑がかかるからと一切言及をしていないが、どうも妻キャロルさんがこの計画を水面下で進めていたらしい。
 

元グリーンベレーの謎の男

実際にゴーンを日本から脱出させたのは軍事関連会社の男が関与したと言われている。彼の名はマイケル・テイラー。どこにでもいるような名前であるが、その業界では知らない人のいない有名人であった。
 
グリーンベレー(米陸軍特殊部隊)出身の人物でFBIの特殊作戦に参加経験もあるという。この男の妻がレバノン人であり、彼もレバノンに従軍経験もあるためのこのツテを借りて計画を遂行したらしい。
 
彼は実際に日本各地の空港に実際に訪れ、抜け穴を探し、ゴーンの逃亡を手助けしたことになる。関空のプライベートジェットの監視はあまく、今回のような大きな楽器ケースはX線の検査を通れず、無法状態になっていたのだ。
 
 

これから

正直この脱出劇について、僕は逆に良かったと思っている。
 
理由は2つあり、日本の司法を見直すいい機会になるし、外国人との付き合い方について議論する機会が必然的に増えるからだ。さらにゴーンの裁判を日本でこのまま続けたとしても、彼の容疑を証明することが比較的難しいのと、最悪のシナリオとして彼が無罪を勝ち取り、日本の司法が恥を取るという結論もありうる。
 
まず発端になったルノーと日産・三菱の統合計画を阻止するためにゴーンを逮捕したという順序になっているため、証拠が不十分であり、彼が逃亡したことに安堵した関係者ももしかするといるかもしれない。
 
次は彼のこれからについて。
 
ではなぜ彼はレバノンを選んだのだろうか。
 
選択肢として他の2カ国も十分にありえるだろうが、最終的にレバノンを選んだ彼。フランスでは黄色ベスト運動の真っ最中であり、マクロン大統領(ルノーの統合話の際に仲違い)とも仲の悪いゴーンをマクロン大統領が歓迎するはずもなく、フランス説は消滅。次に考えられたのがブラジルだ。父親の仕事のためにブラジルで生まれ、幼少期を過ごした彼にとってブラジルという選択肢もある。
 
ブラジル説についてはあまり情報がないので、推測を述べます。ブラジルと日本には犯罪者の引き渡し条約(日本はアメリカと韓国の2国間のみ)が結ばれておらず、ブラジルの憲法5条には「いかなるブラジル人も引き渡してはならぬ」という決まりがある。
 
一見ブラジル説も可能性としてはありだが、犯罪者の受け渡しがないからといって不処罰にするのではない。日本に引き渡しをしないだけであり、ブラジル国内で裁判を受けることになるようだ。
 
実際に日本には30万人を超えるブラジル人が住んでいるため、日本との関係は悪くない。それほどの人間が日本にいると、犯罪者対処にに対する前例が豊富であり、レバノンと比べると身の保証については明白だ。
 
 
それに比べ、レバノン国民はゴーンのようにレバノンドリームを叶え、カリスマ的支持を受けるゴーンにとってレバノンこそがベストな国と言えるのだ。
 
彼はおそらくそう考えレバノンに逃亡することになったのだろうが、実際のところはどうなのか。レバノンではいま政府と富裕層の癒着が大問題になり、金融危機寸前を迎えている状況になっている。
 
長く続いた内戦から経済を安定させるため、商業銀行は富裕層に対して法外な利息を与え、不動産などの投資を助長させる。その資金を回収するために信用のない政府から金利で経済を回し、国を発展させていたのだ。
 
つまり、経済を安定的に循環させるために政府と一部の富裕層のみが経済をコントロールし、経済の底上げを促進する公共事業に投資が回らないため、大きな格差が問題になっている。
 
 
この記事によると1%がレバノン経済全体の25%を占めるというアメリカに次ぐ貧困格差が広がっているのだ。ゴーンのような富裕層には住みやすい国だが、隣国の情勢不安や国民の貧困が溜まってくるとゴーンのような富裕層が攻撃の的になる可能性もある。
 
そしてトドメを刺すかのように先日報道されたゴーンの父親は実は殺人者だったという事実。麻薬や金の密輸業者をしていたゴーンの父親はともにビジネスをしていた神父とのトラブルで銃殺をしてしまう。その後死刑判決を受けるも模範囚であったことやレバノンが内戦に突入したためブラジルに移り、ビジネスでその後大成功するのだ。
 
 
これまで父親について多く語って来なかったのはそんな裏があった。だが父親にしろ息子ゴーンにしろ、手段を選ばずに目標まで突き進むのに長けていたのだろうか。
 
近くに位置するイラクでも貧困層の若者が暴徒化し、フランスでは年間行事のようにデモが頻発。香港でも大規模なデモが起こっていることを踏まえると、それらの状況がレバノン国内で知れ渡ると同様なことに発展してもおかしくない。なぜならいま先に挙げた2カ国のデモのテーマが格差と貧困だからだ。
 
ベイルート国際空港でレバノン大統領ゴーンは面会していたようだが、いつまでもレバノンがゴーンを匿うという保証はどこにもない。レバノン政府にとってゴーンがお荷物になると切ることは十分に考えられる。ゴーンの他にも様々な理由で母国から逃亡を余儀なくされている人はどうなのか。
 
ウィキリークス創設者のアサンジも英国エクアドル大使館に匿ってもらっていたところ、数々の奇行が原因で英国警察に昨年4月に逮捕され、これからアメリカに送還される予定だ。
 
反米左派のエクアドルを選んだアサンジに、ロシアに亡命したスノーデン。日本をはじめとする西洋諸国を完全に敵に回したゴーンの選択は吉とでるのか。その運命を決めるひとつの要素がヒズボラだ。
 
ヒズボラはレバノンの政治・武装組織であり、アメリカや日本などの西洋諸国からはテロ組織指定されている。イスラム教シーア派であり、同じくシーア派が国民の大半であるイランやシリアから支援を受けている。
 
これから日本とレバノンとの関係悪化は現実的に考えにくいが、先日ヒズボラの最高指導者が対米のためにイランへ支援をすると公式に宣言したため、これからはさらなる対立が予想される。
 
日産内部のクーデターから始まったゴーン騒動。保釈後に前代未聞の逃亡劇を繰り広げ、世界を強振させ、さらに対米への報復をなんとしても成し遂げたいイランや民兵組織。主要国の中では、日本はイランとの関係は良好であり、誰も戦争は望んでいない。
 
米中の貿易戦争が引き金となり溝が深まる対アメリカの構図。それを追うようにイランと衝突をはじめるアメリカ。衝撃的な大統領選から4年。トランプ大統領は問題が山積み状態のまま2度目の選挙に突っ込んでいくようだが、事態は暗中模索のままだ。