Movie Magic

アメリカ在住大学生が映画を語るブログ

映画『アス』あらすじ感想:ドッペルゲンガーのホラーが怖くないしつまらない

poster of movie Us

©Universal Pictures

赤い服装をした自分が自分を襲ってくる。

前作『ゲットアウト』がアカデミー脚本賞を受賞したジョーダン・ピール監督待望の第2作目

赤い服装のドッペルゲンガー(自分とそっくりなクローン人間)が自分を襲うパニックホラー映画。

 

さぁ待望の『アス』を観てみよう。

 

サクッとあらすじ 

one adult balck lady and two her children on the beach from the scene of movie Us

©Universal Pictures
1986

1986年カリフォルニア州南部。

少女アデレードは家族に連れられて、遊園地に遊びに来る。母親がトイレに行き、父親は射的ゲームに夢中な頃、彼女はひとりで夜のビーチを歩いていた。

すると不思議で不気味な館を目の前にすると、興味津々で中に入ってみる。中に入ると自分とそっくりな少女と出会い、言葉を失うほど衝撃的な体験をしてしまった‥

現在

大人の女性へ成長したアデレードは、夫のガブリエルと結婚し、娘のゾーラと息子のジェイソンという2人の子供に恵まれた母親になっていた。

幼い頃の恐怖から、失語症になっていたアデレードは見事克服し、いまは一家の母親として幸せな家庭を築いていた。

誰からも愛される性格のガブリエルは家族の大黒柱であり、娘のゾーラは海水浴に来ても、イヤホンを外さずに携帯に夢中する現代っ子になり、末っ子のジェイソンは何にでも興味を持つ積極的な男の子

タイラー家

アデレードは家族で海水浴に来ていると、白人のタイラー家と意気投合。

彼らはたわいも無いことを話しながら、時間を潰すが、末っ子のジェイソンが突然姿を消す

彼はトイレに行くと、身が隠れるほどの大きなコートを被り、左手から血を流しながら、ジェイソンの前に立っていたのだった。

焦った母親アデレードは急いでジェイソンを救うが、このことが気になり夫のガブリエルに話すも、そんなおとぎ話には相手にされるはずもなかったが‥

 

キャストと監督

somewhere in a film festival to premiere movie Us

©Universal Pictures

脚本&監督を務めたのは、『ゲットアウト』で激烈なデビューを飾ったジョーダン・ピール監督がメガホンを取った。

主演のアデレードを演じたのはルピタ・ニョンゴ。彼女は『それでも夜は明ける』での演技が絶賛されアカデミー助演女優賞を受賞した実力派。

夫のガブリエルを演じたのは、『ブラックパンサー』でニョンゴと共演経験のあるウィンストン・デューク

撮影はロサンゼルスのロケ地で6週間のスケジュールで撮られ、音楽は前作『ゲットアウト』同様のMichael Abelsが担当した。

 

一家を襲う謎の自分たち

<ネタバレが含まれます。>
その夜、事件は起きた。

four balck family including mother, father and two children almost crying because of fear from the scene of movie Us

©Universal Pictures

暗闇の中、家の前に佇む4人集団。

彼らはみんな赤い服装を纏い、無言でこちらを見ている。恐怖を覚えたガブリエルはバッドを持ち出して、警察を呼ぶぞ!と脅すも反応はなし。

すると彼らは突然家に侵入し、アデレードたちを攻撃しはじめるのだった。よくみると彼らの顔は自分たちにそっくりのドッペルゲンガーだった。

赤い衣装の自分に図太い低音の声を聞かせながら、はじめにアデレードに手錠を机と彼女の手に付けろと指示をしてくる。

さらにガブリエルはもうひとりのガブリエルと決闘するために場所を移し、娘のゾーラは逃げるように言われ、家族それぞれが四方八方に広がる。

末っ子のジェイソンもドッペルゲンガーのジェイソンと押入れに入り、それぞれが各ドッペルゲンガーと対決するのだった。

タイラー家

アデレード家がドッペルゲンガーと対決する中、タイラー家はすでに悲惨な状況になっていた。

一家全員が簡単にドッペルゲンガーに殺され、アデレードらがなんとか勝ち、タイラー家を訪れた際は、とき既に遅し。

one balck lady with red clothing and one same lady with white clothing facing each other from the scene of movie Us

©Universal Pictures

アデレードのドッペルゲンガー"レッド"曰く、彼らは皆アメリカ政府から作られたクローン人間であり、長い間地下での生活を強いられていたと言う。

さらに地上にいるアデレードたちと同調しており、行動も連動してしまうとまで言いだすのだった。

アデレードはレッドとの熾烈な戦いの末、レッドを殺すことができたが、信じられない事実を知ってしまう。

実はアデレード自身がクローンの人間であり、彼女自身もまた他のドッペルゲンガー同様に地下で育った人間だったのです。

 

感想

four people including two children standing with shaking their hands from the scene of movie Us

©Universal Pictures

独特な世界観に乗るのはキツかった。

全編に渡って繰り広げられる一家を襲ったミステリー感とホラー要素の演出があまりにも陳腐で稚拙であった。

ホラー映画は、いかに映画の世界観と現実世界をシンクロさせ、観客を本物のホラーと体感させるのか?が重要なキーとなる。

だが、本作は観客を完全に忘れかけ、独特な世界を映画で表現しているだけに見えるので、観客側から全くの共感が皆無なのだ。

 

突然自分と全く同じ顔のクローン人間が目の前に現れるあり得ない状況に陥る。なんの兆候もなく、赤いKKKのような自分が襲ってくる新感覚に正直ついていけない。

観客を置いてきぼりにして、製作陣が好きなことをしました。そんな寄せ集め的な映像だった。

主演を務めたルピタニョンゴによる渾身の演技があったからこそ本作は映画としてそこそこの評価を得たが、彼女の演技なしで本作は映画として成り立たなかっただろう。

 

two movie directed by Jordan Peele combined together

©screen rant

監督&脚本を務めたジョーダン・ピール監督は、2017年に監督デビュー作『ゲットアウト』でアカデミー脚本賞に輝やいた。

作『ゲットアウト』では白人女性と付き合う黒人男性が彼女の実家に挨拶に訪れるとき、不可解な事件が立て続けに起き、それに巻き込まれるミステリー映画だ。

作『アス』も、赤い服装に身を纏ったドッペルゲンガー(=自分とそっくりな人たち)に突然襲われるパニック&ホラー映画だ。

 

ピール監督は元々コメディアンなのに、映画を撮ると笑いの一切ないホラー映画に仕上がる。 

斬新な切り口で人種差別を扱った前作『ゲッドアウト』は、ホラー映画として観ても、パニック映画としても純粋に楽しめる。

だが、本作でのホラーシーンはただただつまらないし、2時間ひたすら目を点にして眺めていただけであった。

 

さすが本職がコメディアンだけあって、所々に点在するジョークは最高に好きだった。

例えば、ある白人夫婦がドッペルゲンガーに襲われるシーンで、血だらけになったひとりの女性はAmazon AlexaのようなAIに「警察を呼んで!」と叫ぶ。

すると、Alexaは自信満々の声で、「ええわかったわ。」と言い、NWAの"F○ck Da Police"を流しはじめる。

この曲が発表されたのが1985年であり、舞台になったのが1986年なので、時系列は違うも関連性が見える。

Hiphopが好きな人(ジョーダンピール監督は大のファン)は、この曲を聞くだけで「お!」となるほど話題になった曲であり、警察をディスる内容のこの曲を、あのタイミングで流す度胸とインパクトがさらなる笑いを呼ぶ。

 

『ゲットアウト』は『ステップフォードの妻たち』から着想を得たとピール監督がインタビューで語っているが、本作アスも様々な映画がインスピレーションを与えた。

『アス』の冒頭シーンはスタンリーキューブリック監督の『シャイニング』から影響を受けた兆候が見え、『エルム街の悪夢』の映画音楽と本作の劇中で流れてくる不吉な雰囲気をした音楽と類似点が見られる。

 

one white young guy with blonde hair with post card with words 11:11 from the scene of movie Us

©Universal Pictures

『ゲットアウト』はインパクトが強すぎたため、過去作品との繋がりが見えにくい新しい映画だったが、本作はいろんな箇所から名作映画へのオマージュとピール監督自身の音楽の趣向が垣間見れた。

劇中で度々出現した11:11という数字も、本作の基となった旧約聖書のエレミヤ書第11章11節から暗示された数字であるし、掘り下げて本作を研究すると関連性がいくつも浮かび上がってくる。

映画評論家のJoel Meares氏曰く、タイトルの『Us』(アス)はU.S=アメリカを表していると語っているが、ジョーダンピール監督自身もインタビューで本作が扱うことについて語っている。

本作は地下で生まれ育ったクローン人間と、地上で普通に暮らす人たちの身分の差を明確に描いている。

アメリカに生まれること自体が一種の特権であり、アメリカに移住したと思っても、できない現実がそこにはある。

本作での地上に生まれた人間は、アメリカで生まれた人間のことを暗示し、逆に地下で育った人はアメリカに移住したくてもできない、立場の弱い人間なのだ。

 

ホラー映画を通して、アメリカが抱える移民問題を間接的に風刺し、これからアメリカが進むべき道筋を本作は示しているのかもしれない。

このままこの悲惨な移民問題が長引くとどうなるのでしょうか?答えは本作に隠されていたのです。

本作で地下で育った人は自分たちの権利を主張するために、地上へ奇襲をかけ、次々と地上で生きる人たちに逆襲をするのだ。

本作は結局地上の人たちに防がれ、ハッピーエンドを迎えるのだが、結末の迎え方が好きじゃない。

これほど秀逸なほど移民問題を風刺しているのだったら、バッドエンディングにした方が映画としての幅が広がりそうですよね。

ただこれをバッドエンディングにすると、ハッピーエンドが好きなアメリカ人受けは悪くなるので、よくないかもしれません。

 

びぇ!