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アメリカ在住大学生が映画を語るブログ

映画『フリーソロ』あらすじ感想:命綱なしでヨセミテの絶壁を登るアレックス・オノルのドキュメンタリー

poster of documentary Free Solo

一瞬たりとも油断は許されない。さもなくば死が。

これまで数々の絶壁をひとりで登りきったロッククライマーのアレックス・オノル初のドキュメンタリー

2018年製作の本作は、公開当時たった4館での上映だったが、口コミで話題となり、拡大公開&一館あたりの平均が7万5000ドルを超える好成績を記録した。

2018年のアカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞

 

さぁ『フリーソロ』を観てみよう。

 

フリーソロとは?

one guy climing without rope from the scene of FreeSolo

“Free Solo”は山などを登るときに命綱を一切つけないで登り切ること。つまり手を離した瞬間真っ先に下に落ちて行き、確実に死亡する。

このドキュメンタリーはアメリカのヨセミテ国立公園のシンボル”El Capitan”という絶壁をフリーソロで人類初登りきったアレックス・オノルの物語

Appleのマックの壁紙に映ってる崖というとピンとくる人もいるかもしれません。

 

アレックス・オノルの半生

Alex honnold with red jacket looks up from the scene of FreeSolo

1985年カリフォルニア州サクラメントでオノルは生まれました。

もともとシャイであった彼は、まわりの友達と上手く馴染むことができず、5歳のときに登山に出会います。それから登山に没頭し、10歳になる頃には週に何度も山に足を運び登山の練習を励んでいたそう。

世界最高峰の大学カリフォルニア州立大学バークレー校にエンジニア専攻として入学するが、すぐに学校には行かなくなり、ますます登山に注力するようになりました。

 

バークレー校はその後中退し、登山家としてやがて頭角を表してきました。

2017年、彼が31歳のときヨセミテ国立公園のEl Capitanを史上初のフリーソロで登りきりました。2018年6月には自信が持つ前回の世界記録3時間56分を大幅に塗り替える1時間58分で登頂した。

「登山界のアカデミー賞」と呼ばれるピオレドール賞を受賞し、ひとりで史上初フリーソロで登り、翌年には自身の持つ記録を塗り替える天才は、他と何が違うのかを本作は彼の実生活から紐解きます。

 

天才の生活は極めてクレイジーだった。

Alex Honnold looks up the sky from the top of mountain from the scene of FreeSolo

2017年にフリーソロでの初登頂を記録するために、映像作家のジミー・チンとエリザベス・チャイ・ヴァサルへリィの両監督が、アレックスの実生活を記録しはじめた。

 車上に10年以上住む

すると天才の変わり果てた実生活が徐々に露わになった。

はじめに10年以上車で住んでいる。「車が特別好きなわけじゃないけど、ヨセミテの近くにいたいと思ったんだ。」と満遍の笑みを浮かべてインタビューに答える。

毎食自炊するアレックスはいつも料理したままのプライパンとフライ返しを箸をして食事をする。見た目はいたって普通の好青年だが、中身をみるとだいぶイかれている。

 ベジタリアン

生活はいたって平凡だが、中身を少し覗くと頭のネジが外れてるんじゃない、ほぼない。さらにベジタリアンでお肉・魚類は一切食べず、常に決まった自ら自炊した野菜の炒め物。

ご飯に楽しみを一切感じず作業のように食べ物を口に運ぶ彼にとって登山するときが唯一目がキラキラ輝く瞬間。

お酒も飲まないし、ドラックだってやらない。彼にとってそんなものに力を借りて現実逃避する必要がないだもの。

登山をするときはありったけのアドレナリンが噴出するし、興奮が止まらない。何をするときも登山のことが頭から離れず、ひたすら妄想をする。次はどう攻略しようか、と。

 最後の20分

彼が前代未聞のフリーソロでの登頂に向け準備が着々と進んでいく。

彼の著作のサイン会で出会った彼女が登場し、ふたりで精神的な面でも支え合い、クライマーのトミー・コールドウェイと練習に練習を重ねる。

最後の20分がアレックスが実際に登る姿を空中から地上からあらゆる方向から彼の成功を見守る。手を外すとすぐに死が待ち受ける絶体絶命な状態が3時間近く続く。

彼自身の精神面も強靭だが、あれを地上で3時間も見守る他の人が信じられない。自然界の崖を命綱ありで登るのも難しそうなEl Capitanを命綱なしで登る。

 

感想

a few people including Alex Honnold take a rest in a middle of mountain from the scene of FreeSolo

どう考えてもおかしい。

心配性な人間なら見てるだけで失神すること間違いなし。それほど緊迫した状況が数時間に及ぶし、これが実話であるという真実が突きつけられるのだ。

トム・クルーズは50を超えてもいまだに自身で危険なアクションシーンを演じることでも有名だが、と言ってもあれはフィクションの誇張されたアクション映画だ。

だから何の心配もなく映画を2時間楽しめるのに、この映画は一字一句本物のドキュメンタリーだ。アクション映画の"安心して楽しめる"が全く通用しない

エンターテイメントは人々を現実逃避させ、楽しめさせてくれる。でもそれはフィクションだからという、保証書付きである。

保証書の付いてないアクション映画があれほどソワソワして心臓をバクバクさせる新体験は他にない。

ひと昔前の中国のど田舎のくたびれたジェットコースターに行きたいと思うか?動き出すと安全バーはヨレヨレで、ギコギコと機械音が聞こえてくる。

 

本作を観るとはそういうこと。

 

強靭な精神力とクライミングが好きという一途な少年を垣間見ることができた。一瞬の焦りも見せない孤高の登山家が普段から大事にする哲学は何なのか。

同じフリーソロクライマーとして命を落としたジョンバッチャーを心から尊敬し、同じクライマー仲間のトミー・コールドウェイを尊重し、ともに大記録を達成する男の物語がここにある。

 

2019年9月6日日本公開。

 

びぇ!