Movie Magic

アメリカ在住大学生が映画を語るブログ

Aviciiの新アルバム『TIM』が私たちに遺したもの

albumTIM

またひとり伝説が倒れた。
音楽に新しいムーブメントを起こし、世界中にEDMという分野を確立させた若き才能の死は、あまりにも早すぎるよ。
 
Aviciiはスウエーデン出身のDJで、EDM(=Electronic dance music, 俗に言うダンスミュージック)というこれまでなかった全く新しい分野を作り出し、時代の先駆けとなる人物になった。
SkrilexやDavid Guettaなどが有名だけれど、彼ほど格越した才能の持ち主は他にいなかった。
2018年4月滞在先のオマーンで死亡しているところが発見され、わずか28歳だった。そんな伝説がまたひとりこの世を去り、死後初の新アルバム「TIM
 
さぁレビューしていこう。

Aviciiをふりかえろう

Aviciiことティム・バークリングは1989年にスウェーデンのストックホルムで生まれた。
高校卒業後、自宅にこもり音楽制作に没頭し、夢中する。はじめに彼が脚光を浴びた"Lazy Lace"は、ゲームのRemixであった。
 
2013年発表の "Wake me up" はYoutubeで18億回再生を超える大ヒットを記録。
その年に街を歩いてて聞かない日はなかったし、若い世代で夢中になっていない人間がいなかったくらい人々の心をつかんだ。
 
車でドライブにあったり、家に友達を呼んだときは必ずかかる曲だし、これを流しとけば、間違いないみたいな王道のポジションを独占していたのだと思う。
他にも独特なPV "Levels"や"Without me"など常に業界の先を行く彼の音楽は曲をリリースするたびに巷では話題になっていた。
 
そして、死後初アルバム"TIM"が発表。
 

新アルバム「TIM」がリリース

2019年6月6日にリリースされた "TIM" は全12曲。
ティムが死亡後、未完成だった新アルバムを完成させようという動きになり、Kristoffer Fogelmarkらプロデューサーが残りのアルバムを完成させた。
Aviciiが作り出す音楽は天性の才能を感じるほど画期的で卓越したものだった。EDMの音楽性にアラブ音楽やインド音楽を重ね合わせて、これまで誰も聞いたことのない音楽体験を提供し続けた。
 

 SOS feat Aloe Blacc

“SOS”は”Wake me up”でもコラボしたAloe Blaccと共同で制作した。
音楽性はもちろんAloeの声が絶妙にマッチして難度のこの曲を聞き入れてしまう。
 

I can feel your love pullin' me up from the underground, and
I don't need my drugs, we could be more than just part-time lovers
I can feel your touch pickin' me up from the underground, and
I don't need my drugs, we could be more than just part-time lovers

 
このサビの歌詞は1999年のTLCの”No Scrubs”からサンプリングした。
さらに最後のパートの熱いメッセージは忘れられない。
 
Can you hear me? S.O.S.
 
長年鬱で悩むも、誰にも打ち明けることができなかったAiviciiの悲しい心の声がしんみりと伝わってくる。
 

 Heaven feat Chris Martin

ColdplayのボーカルChris Martinとのコラボ曲。
Aviciiのセカンドアルバム"Stories"で、Chris Martinとコラボする予定だったが、それが実現したのはTimがいなくなってからだった。
 
そして曲名は”Heaven
亡き友に贈る曲として男の悲しい友情が綴られている。
 
You come to raise me up
When I’m beaten and broken up
And now I'm back in the arms i love
 
わたしがどうしようもなかったとき、あたなはわたしを助けてくれた。そして、いまわたしは元気にやっているよ、とそう横でつぶやいている気がする。
 
It’s such a view, such a beautiful sight 
went to heaven 
 
いつかのあたり一面に広がる美しい景色を思い浮かべながら、天国へと向かった若きひとりの男へChris Martinはそんな言葉を残す。
 

 Freak feat BONN

世界的なDJが日本の名曲をサンプリング。
Sukiyaki Melody”と彼らは呼び、AviciiがLAに新曲制作のために訪れたとき、はじめにこの曲のサンプリングからスタートしたという。
1960年代発表の坂本九の名曲”上を向いて歩こう”をベースにこの曲が生まれ、Aviciiの感じるダークな感情や暗いどんよりとした気持ちを、日本の名曲に合わせる。
 
 
共同プロデューサーがTimとの楽曲制作の背景をドキュメンタリー形式で話すこの動画に新アルバム "TIM" の背景とAviciiの日常が垣間見れる。
数十年前の名曲が世界的に有名なDJに拾われ、現代のテイストを加えた状態で蘇らせた "Freak" は、男の内情に眠る不安や悩みを描く。
 
 

 Tough Love feat Agnes&Vargas&Lagola

Aviciiの大ヒット曲の "Friend of Mine" でもコラボしたVargas&Lagolaとの再コラボ曲。
この曲はふたりのカップルの間で起こるクセのある恋物語(=タフなラブ)を、中東の文化からインスピレーションを受け制作された。
中東のリズムにヴァイオリンの美しい音色を重ねたメロディとは反対に、男女のドロドロした気持ちのぶつかり劇が絡み合う。
 
Sometimes I’m not who you want me to be 
God knows I try, we Stumble and we fall
There’s no place I’d rather be than in your arms 
 
ふとしたときに急に無駄なことを考えてしまう。
わたしはあなたが望む通りになれないときもあるって。
なんとか頑張ってはみるけど、つまずいて結局転んでしまうの。
でも、あなたの腕の中に勝る居場所はないの。
 

 Hold The Line feat ARIZONA

"Hold The Line" は、日々生活の中で人々の不安だったり落ち込む姿を投影している。
ほとんどのパートを生前のTimが完成させ、最終的なまとめを他の共同プロディーサーが完成させたこの曲は、直接Timが生前に伝えたかったなにかが表現されているようが気がする。
 
好きな歌詞のパートはこちら
 

We don’t get to die young
Trouble keeping our head sometimes

僕たちは若く死ねやしない
時々心の平静を保つのが難しい

We just have to push on
We don’t get to give up this life

前進していかなくちゃ
この人生を諦められない

All the breath in your lungs
Is stronger than the tears in your eyes

肺一杯に吸い込んだ息は
君の目にあふれた涙に勝る

It’s do or die
But we’re alive

食うか食われるかの命懸け
でも, 僕たちは生きている

And while we’re here

ここにいる限り

Hold the line

後ろへは退くな

 

“Tim”が遺したこと, 伝えたかったこと

avicii prays

筆者が高校生のときAviciiを聞いたのをいまでも覚えてる。
なんかこれまで聞いたとこのないような新感覚の音楽で、まるでジェットコースターに振り回されているようなあの感覚。
 
"Wake Me Up" は一番自分がアメリカにどっぷりかぶれている時期に何千回も聞いた曲だし、友達とドライブに行ったり、旅行に行った先で爆音流しながらよく聞いたのを思い出す。
さだかではないが、"Wake Me Up" は僕が英語の曲を歌えるようになったはじめての曲で、いまでも流れていると、思わず口ずさんでしまう。
それほど彼の曲には個人的に思いれがあるし、彼の活躍を高校生だった僕は眺めていた。
 

when Avicii was in the concert

才能がある人ほどすぐ死んでしまう。
とても悲しいことだけど事実だし、毎年のようにレジェンドが僕のまわりから消えていなくなる。 Aviciiは生前に鬱に悩み、ドラッグに手を出してしまった。
みんなの見える表舞台では、若き成功者として誰もが羨むスターだったけど、ひとりになると急に不安に襲われる。ステージ上では蝶のように羽ばたくスターでも、裏に引き下がると蛹に戻ってしまう。
 
ドラックと鬱は音楽業界に限らず、深刻な問題としてよく最近は取り上げられる。Mac MillerやLil Peepが若くして先立ったように、Aviciiもその後を追ってしまった。世界的に巻き起こっている精神的な病気とドラックは別問題として切り離せないくらい相関関係にある。
Aviciiには個人的な思いれがあったからいつもは書かない音楽のコラムをこうして書いてみた。普段は映画をメインに扱うこのブログでも、たまには毛色の違う記事があってもいいと思うんだ。
 
けど、ドラックと鬱は音楽業界だけでなく、映画でも最近はよくそんなことが描かれるよね。
 
日本は年間20000人を超える人が自殺する。
これほどイかれた国はないだろうし、なぜそんな状況を横で眺めながらぼーっとしてられるのか不思議で仕方ない。
彼らに降りかかるこの問題が他人のこととしてではなくて、ひとりの人間としてしっかり考えるべきだよ。
だってあんなにステージ上で輝いてたAviciiでさえ、みえないところでひとりで抱え込んで悩み続けていたんだよ。
 
 

picture of avicii

 
"When I die,
"People will remember me for the life I lived, "
"Not for the money I made "
 
~Avicii