Netflix映画『アメリカンファクトリー』あらすじネタバレ:オバマ夫妻が製作した中国企業のアメリカ進出の裏側
中国の世界進出が止まらない。
中国の企業がアメリカの廃工場を復活させ、歓喜が戻ったアメリカ中西部。
だがその喜びは束の間、文化の違いで両者の溝は深まるばかりになり、ついにデモ活動にまで発展する。
米中関係の修復の目処が立たない今だからこそ訴える何かがここにある。
元アメリカ大統領オバマ夫妻がはじめて製作に携わり作品で、映画サイトRotten Tomatoesでは97%の高評価を獲得したドキュメンタリー。
さぁ『アメリカンファクトリー』を観てみよう。
サクッとあらすじ
2008年12月23日。
リーマンショックによって世界中が不況に見舞われる中、アメリカ中西部は甚大なダメージを被った。
アメリカの大手自動車会社GMはオハイオ州デイトンの工場は閉鎖に追い込まれた。その影響で1万人以上が失業した。
2010年、中国企業は閉鎖工場の再建など米国製造業へ投資を増加させた。
本作はその代表的な例として挙げられる中国の巨大企業 福耀(フーヤオ)のアメリカ進出の裏側を追ったドキュメンタリーだ。
福耀(フーヤオ)は自動車用ガラスを製造する業界シェア70%の巨大企業で、デイトンの工場は福耀(フーヤオ)にとって初の世界進出になる。
中国式の企業理念をアメリカで展開し、アメリカと中国の二大文明の融合だとして各方面から熱い視線が送られ、期待されていた。
しかし、これが中々上手くいかない。なぜだろうか?
現場を潜入取材し、その裏側をスクープする。
文化の違いがこれほど経営に影響するのか
本作ほど中国文化と西洋文化が明確に対比されている映画はないだろう。
それほど二つの文化は正反対の位置に存在し、共存するのが容易なことではないのがよくわかる。
中国とアメリカの違いを文化、仕事、労働組合の3つのセクションで分けました。
文化の違い
他国で働くとなると、文化の違いは一番はじめに感じる。
中国人がアメリカに働くにあたり、オリエンテーションの話が非常に中国らしくて笑える。教官はジョークで中国人労働者にこんなことをいう。
「大統領をダシにふざけても、誰も何も言わないよ」このブラックジョークは中国だからこそ笑える。
だが、これを言った教官は決まったぜという顔を決め、それ以外誰ひとり笑っていない現場はそれ以上にブラックだった。
さらにアメリカ人の発音できない問題。自分が働く会社名である福耀(フーヤオ)すらまともに発音できない。
「フィーヤオ?違うよ!フーヤオ!ん?フォーヤオ?違うってば!」この世界一無駄な会話が永遠と繰り返される。
これは中国人に限ったことではなく、僕がアメリカで名前を名乗るときも同じことが起きる。
僕の名前はアメリカ人にとって非常に発音しにくいらしく、いつもこの会話をする。
僕の経験上、Kが頭文字に着く名前・苗字は彼らにとって発音が困難らしい。例えば、かいと(Kaito)やけいすけ(keisuke)などは必ずキートやキースケとなる。
実際はこれよりひどい。
これはアメリカ人は能なしだ!と言っているのではなく、彼らには複雑な名前を呼びあう文化がそもそもないし、アジア的な音が英語にはないので、発音できないのは、いわば当然のこと。
仕事に対する思いの違い
言語や肌の色の違い以前に、アメリカ人の仕事への位置付けが違いすぎる。彼らは仕事より家庭や自分の時間を優先するし、とにかく要望が多い。
これはやりたくないだの、あれは危ない、あの人は嫌いだ。そんな戯言を口にし、環境の改善を即刻要望する。
一方、中国人はとにかく働く。月に1~2日の休みが当たり前なほど勤勉だし、よく働く。
中国も世界第2位の経済大国になり、若者が働きすぎで頭がイカれ、夜中の車道で爆走し、暴れるなど理解に苦しむ事件が多発している。
それほど中国人はとにかく働くし、個人の時間がない。それを聞くアメリカ人は口を開けて驚き、両手を挙げ、例のWhy??と嘆く。
労働組合の存在意義の違い
本作を読み進めるに当たって、労働組合を避けては通れない大事なトピックになる。アメリカは階級の低い労働者の権利を守るため、ほとんどの企業に労働組合が存在する。
しかし、福耀(フーヤオ)は労働組合を認めないスタンスをとった。中国では労働組合などないし、彼らからすると生産性が落ち、損失を招く恐れがある。
そうなると労働者へ給料を分配できなくなる。さらに労働組合に多額の資金を投入するなら、そのお金を労働者にあてた方が効率的だろうというのが経営層の言い分だ。
アメリカ人は不満があるとすぐに主張する国民性なので、労働組合がない福耀(フーヤオ)では、すぐにデモ活動に発展する。
ただ彼らの待遇を前のオーナーGMを比較すると、不満が漏れるのは当然だ。
ある従業員の話によると、GMのときは時給29ドルだったのに対し、福耀(フーヤオ)では12.48ドルだ。時給はなんと半分。
さらに安全面も不安が残る。
別の社員曰く、GMで働いていたときは、15年働いててケガは一度もなかったという。だが福耀(フーヤオ)では1年も経たないうちに右足を骨折してしまったという。
だが、中国ではこの待遇は当たり前。中国本国から赴任してきた中国人の技術職の腕は傷だらけだった。
どちらが悪いという話ではなく、中国人が当たり前のようにやっていたことをアメリカでも同じようなことをすると、そんなずさんな管理のもとで働いたことがないアメリカ人は当然のように怒り出す。
感想
本作はサンダルス国際映画祭に出品され、リバーラン国際映画祭でベストドキュメンタリー賞を受賞した。
アジア的経営方針と西洋的経営方針の違いからそれぞれの文化の違いまでを同時に描いた上、露骨に冷え込んだ米中関係への風刺をしているのが秀才だ。
中国の雇用体制や、安全面への考慮欠如など、彼らの経営状況に多くの疑問が残る。
さらに中国人が上官になり、その下でアメリカ人が働くという構図が、黒人奴隷とそれを支配する白人の関係と重なり合わさる。
そんなわかりきった上下関係が存在する上に、労働者の権利を守る唯一の手段労働組合を禁止する福耀(フーヤオ)に対して労働者は立ち向かう術が全くないのだ。
数十年前まで自分たちが奴隷を支配していたアメリカでは、21世紀に入り、違う形で奴隷となってしまった。
奴隷制度は見るからに勢力図が見えるのに対し、企業奴隷は見えにくい。
だが、本質を追っていくと、出来上がっている現体制と奴隷制度は何一つ変わらないのだ。デモ活動が活発になると、福耀(フーヤオ)も対抗手段に出る。
組合回避コンサルタントといういかにも怪しい職業の人物が、講習を開き、組合を廃止するよう説得する。
まず「そんな職業が存在するのかよ!」と言いたくなるが、最終的に彼らの仕事が功を成す。
労働組合の発足に関しても投票が開かれる。結果僅差で反対が勝ち、組合は発足されない結果となった。
さらにデモ参加者を、何かと理由をつけ解雇し、Yesマンしかまわりには残っていない。
福耀(フーヤオ)は労働組合を阻止するために、百万ドル以上の資金を投入し、デモ参加者には不当な解雇をする。
本作は労働組合の賛否の投票が終わったところで幕を閉じるが、最後のメッセージを取り上げて本記事も終わりとする。
フーヤオは組合阻止のため百万ドル以上を出費。組合回避コンサル業は70年代以降成長を続け、給与と組合は減少を続けた。
世界中で3億7千5百万人が2030年までに自動化のため失業する。労働者や政府企業の取り組み方が仕事の未来を決める。
リーマンショックによって次々と企業が倒産し、職を失った彼らは新たなホープ中国企業によって救われることになった。
だが、その実態は悲惨なもので、最後の手段である労働組合まで設立が許されない。
その二国間の対立で、一番美味しかったのは組合回避コンサルタントとかいう意味のわからない、胡散臭い職業であり、それによって多くの機会を労働者は奪われる形になった。
ここでオバマ夫妻が本作にかける思いを今一度確認したい。
オバマ夫妻の映画製作会社Higher Ground Productionsは、なぜ本作を一作目の映画として会社の命運を託したのだろうか?
トランプ大統領は就任以来、オバマ大統領が8年かけてやってきた政策を全部ぶち壊し(オバマケアなど)、世界中にナショナリズムを蔓延させるきっかけを作った。
さらに中国に貿易戦争を吹っかけ、二国間は冷え切ったままだ。そんな状態でもダウをはじめアメリカの3指数は最高軒を推移している。
大統領としては異例のFRB(アメリカの中央銀行)に圧力をかけたり、メキシコに壁を作るなどと発言し、僕らはこれから世界がどうなっていくのか全く予想できない状況にある。
本作を通じて僕が思うことは、「予想外の漁夫の利」である。
中国の進出で組合回避コンサルタントという職業の需要が、予想外のところで需要が高まったように、この貿易戦争はなんの得があるのか?
これによって得するのはアメリカではなく、中国だろうし、それ以上に見えないところで得をしている人間がいるということだ。
中国をいくら押さえつけたところで、彼らの進撃を誰も止めることはできないし、この騒動で中国国内は一致団結し、エネルギーが漲っているという報道もある。
この貿易戦争が吉と出るか凶と出るかは数年後だろうが、オバマ大統領は、世界を動かしていた一国の大統領として静かな警鐘を鳴らしているのかもしれない。
びぇ!