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アメリカ在住大学生が映画を語るブログ

韓国映画『受取人不明』あらすじ感想:韓国に滞在する米軍が問題を起こし続けるわけ

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Tube Entertainment
米軍が基地を構える近くのある韓国の町。
米軍を極端に近い場所で住む彼らの生活は他とは少し違う。毎日のように外国語が飛び交い、武装した兵士たちが平然とあたりを歩いている。
アジアの小国を舞台に、米軍の存在とそのまわりの住民のそれぞれの心の葛藤を描く。
 
さぁ『不明受取人』(수취인불명)を語ろう。
 

サクッとあらすじ

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黒人米軍の父親と娼婦だった韓国人母親のハーフの男チャングクは、廃バスに母親と二人で住む。母親は突然いなくなった父親がいつか戻ってきてくれると信じ、手紙を書き続けていた。
 
ウノクは右目が悪い少女。片目にコンプレックスを抱え、常に右目は髪で隠し、暮らしていた。チフムは父親の営む家業の手伝いをし、学校に通えていない。
学校に通い英語が話せるウノクに、英語をしゃべれないチフム。アメリカかぶれの悪ガキ少年らにからかわれるチフムは、助けてくれるウノクに心惹かれて行く。
 
米軍と恋仲関係にあった母親とその息子はまわりからは白い目を向けられ、目を手術するために必死に英語を勉強し、米軍に接近する若い女の子。
米黒人との混血だからと居場所がないチャングクと、米軍と距離を縮めたいウノクに、アメリカに憧れを持つ、アメリカかぶれのガキ大将。
 
米軍の駐在で揺れるある町を舞台に、それぞれの立場から韓国とアメリカの関係を紐解く。
 

住む町内に米軍がいるということ

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韓国は地形上とても複雑な国である。
北にはいつ戦争が勃発するかわからない北朝鮮と睨みを利かせ、海の向こうからはアメリカ軍が安全とかいって侵略してくる。
住んでいる町からさほど遠くない場所で、体が一回りも二回りも大きい人間が銃を腰掛け平然と歩いてる。
訳のわからない言語を話し、集団でウロウロうろついているのだ。たとえ彼らが善人だろしても、外観のイカつさと小柄なアジア人とは正反対の西洋人はまず恐怖を覚える。
 
「グエムル 漢江の怪獣」でアメリカ政府を批判したり、「JSA」では北朝鮮との関係を描くなど、国際問題が映画の中で描かれることが韓国では多い。
日本統治時代を描いたNetflixドラマ「ミスターサンシャイン」や映画「お嬢さん」でも日本が韓国を占領している外国として描かれている。
それほど韓国という国が歴史上さまざまな国に悩まされていて、それに関して不満が多いのだ。
 
日本でも沖縄をはじめ日本各地に米軍が駐在しているが、韓国でも軍人による犯罪が絶たないという。
オスプレイの騒音や米軍によるレイプ事件をメディアは多いが、いまいち実態がつかめない。
実際に住んでいる人たちがなにを見てどう感じたのかを、本作は多面的に描こうとしている。
米軍に恐怖を覚え、全ての生活が彼らの存在によって狂わされた人間と、米軍に憧れを持ち近づこうとする少女に、立場によって思うことはさまざまだ。
 
アメリカかぶれの少年に関しては、服装も韓国の田舎だと浮いてるよ?と言わんばかりの格好に、英語を話し始めちゃうイタさ。
彼らが出てくるたびに昔の自分の延長線上にいる存在で、笑みが溢れてしまうが、本作は決して真っ向から米軍を批判していないようにみえる。
さらに韓国人からの目線だけではない。米軍の人間だって来たくてこんなアジアの小国に来た訳ではない。
生まれてこれまで地平線まで広がる平地を見て育ってきた男にとって山々は耐えれるものではないし、まさに生き地獄なのだ。
 
監督を務めたキム・ギドクは韓国を代表する奇才として知られる。
ギドクにとって初期作品の本作「受取人不明」はいかに若かりし頃の彼が才能に恵まれていたかがよく分かる。社会を風刺する作品を制作しようとすると、一方面からでしかその物事を捉えようとしない。
 
痛烈にただ批判するだけの作品は多い。しかし本作は韓国の中でも、米軍に対して穏便派と反対派に分かれ、米軍の内情もひとつの意見として、全てまとめて描いている。
同じく初期作品の「魚と寝る女」と本作「受取人不明」は政治色の違う作品だが、描かれる女性像が逆風に吹かれようと強く生きる女性で、口数の少ない女性であった。
 
この2作品を経て、キム・ギドク監督の名が世界中に広がるきっかけとなるのだ。
 
びぇ!