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アメリカ在住大学生が映画を語るブログ

韓国映画『嘆きのピエタ』あらすじ感想:魂の抜けた借金取りのある男が学んだこと

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韓国の巨匠キム・ギドク監督が製作した本作はヴェネツィア映画祭で最高賞にあたる金熊賞を受賞した。
ある借金取りの男と母親を名乗る女の物語をキリストと聖母マリア様に例えて韓国のダークな部分を独自の目線で描く。
 
ギドク監督の集大成とも言える『嘆きのピエタ』(피에타)を観てみよう。
 

サクッとあらすじ

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ある韓国の町工場。
全盛期の勢いは完全に衰え、活気さえも消え失せていた。死んだ工業地帯で借金取りをするイ・ガンドは、貧乏人を障がい者にして金を巻き上げていた。
ある者は腕を切断し、ある者は足を折った。人々の生活と平然とぶち壊し、無言でその場を立ち去る。
 
ある日母親を名乗る人物がガンドのもとに現れる。
30年前にまだ幼かったガンドを捨て姿を消した女を、はじめは無視しながらも、徐々に謎の感情を持つようになる。
やがてこれまで持ったこともなかった愛情を知るようになったガンドは、その女を母親として愛するようになり、血も涙のなかった男がついに変わり始めるのだった。
 
ついに障がい者にされた人間に母親が拉致され、母親の行方を追うガンドだったが、信じられないことを目の当たりにする‥
 

労働社会に潜む闇と人間の残忍さ

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Gacktに激似すぎww

主人公のガンドがめちゃくちゃGacktに似てる。
これだけははじめに言いたかったんですよね。いくらガンドが無口でひどいことしても、韓国語をベラベラ話していても、全く話が入ってこない。
さぁそんなクダらないことはさておき、
 
本作が舞台になる韓国のある工業地帯は、人間社会の底辺を描いているようだった。
廃れきったこの街に工業など残っているはずもなく、生き残っている中小企業はとにかく生活が厳しい。
材料費すらも回収できないほど安価な報酬が追い打ちをかける。食べるものを買うお金がない人間が最終的に行き着く先は、裏レートで借金をかりることだった。
一時的に生活ができるようになっても本末転倒で、先に待っていることは返しきれないほどの借金の嵐。
 
毎日のようにガラの悪い人間たちが家の周りをウロウロし、金を返せと脅してくる。どうしようもなくなった最後には障がい者でもないのに障がい者手当を国からもらう。
障がい者じゃないならどうするか?簡単なことだ。事故に見せかけて障がい者になればいい。
主人公のガンドはそんな人生の末路みたいな人間たちを日々事故に見せかけ障がい者にすることが彼の仕事なのだ。
 
日本でも数十年前まではヤクザが主体となって各地で借金取りが存在していたが、日本からそう遠くはない韓国でも状況は変わらない。
人を殺さないようにビルから突き落としたり、指を落とすのを平然のように眺める。
その死んだ目をしたガンドにはもう、感情など一切存在せず、ただ日課のように機械を起動して、目の前で腕を切断する。
 
彼は母親に小さい頃に捨てられ、愛情を全く知らないまま大人へと成長してしまったので、まるで魂が抜け残忍なガンドにあるのは、暴力と怒りのみ。
だから、目の前で家族が泣き喚こうと、必死に訴えてこようとなにも感じない。その彼の姿は悪魔の形相をした何かであった。
ひとつだけ言えることがあるとしたら、あれは人間なんかではないということ。
 

ピエタが嘆く

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(ネタバレが含まれます)
 
感情を殺し、障がい者に仕立て上げるのが仕事で借金取りのガンド。突如母親を名乗る女が現れることで全てが変わる。
ガンドにもかすかな親近感と愛をその母親に感じ、これまでの忘れられた時間を取り戻す意味で、ふたりの時間を大切に過ごす。
 

しかし、母親が何者かにさらわれると事態は急変する。必死の思いで、思いつく限りの場所をまわり母親のありかを探すも見つからない。

そして障がい者になったかつての町工場の人間を間のあたりにすると、ガンドは徐々に自分のやってしまっていたことを初めて理解し、後悔するようになる。
そのきっかけは実の母親であり彼女との出会いであり、そこではじめて他人を大切にするということを知ったのだった。
 
自分のせいでその母親は毎日なくなった息子の墓の前で手を合わせ、子供がいた家庭は、悲しそうな顔をする子供をただみることしかできなかった。人を愛することを初めて知り、徐々に変わっていくガンド。母親への思いがより一層強まっていく。
だたその母親は実の母親なんかではなかった。わざと自分が襲われたように自演し、血眼になって探すガンドを撹乱する、ガンドに復讐をするために彼に近づいたのだった。
 
この女の正体はガンドによって息子を殺された町工場の青年の母親であり、その仕返しのためガンドのもとに母親として忍び込み大切な人が亡くなるという悔しい気持ちを感じてほしかったのであった。
偽の母親にめちゃくちゃにされたガンドは泣きながら訴えるも、そのガンドこそが女の人生をめちゃくちゃにした張本人なのだ。
 
このすべてが線となって繋がる感じがとても気味が悪い。
本作を一言で表すと因果応報や”やったことは必ず帰ってくる”になるが、本作ほど見終わった後の胸のモヤモヤ感を感じる映画は他にない。
 
ガンドはこれまで自分がなんとも思わずにやってきたことを痛感した。
たかが数万円のために一生を棒に振るほどの後遺症を残すほど追いやったこれまでの自分の行いや、それによって家族までもを巻き込んでしまったことも。
 
ついにガンドはこれまでやってきた全てのことを悔いるように足に鎖を巻きつけ車に引っ掛ける。まだあたりが薄暗い朝、車が動くのと同時にガンドは無残に引きづられる。
すべては自分が望んだこと。彼の残す血はラインを引くように道路に色濃く残るのをいまでも忘れない。
その真っ赤に染まった道路とそれを微かに照らすまだ辺りが薄暗いある朝、彼はこれまでの行いを傍観するように立ち伏せ、何事にも動じずに静かに消えていった。
 

韓国のキリストとマリア

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韓国映画はキリスト関係の映画がとても多い。
本作『嘆きのピエタ』の”ピエタ”は、十字架に架けられ死んだキリストを聖母マリア様が抱く彫刻や絵画を指す。
ルネサンスを代表する彫刻家ミケランジェロが完成させら『ピエタ』が有名だが、本作はそんな”ピエタ”を主人公と重ね合わせていた。
 
例えば、本作の他にも『哭声/コクソン』は、登場人物とキリスト教の「ルカの福音書」を重ね合わせ反響を呼び、ヴァンパイヤの神父を描いたSFファンタジー映画『渇き』がカンヌ国際映画祭で審査員賞に輝くなど、韓国映画はキリスト色が強く、国際的に評価が高い。
 
 
びぇ!