Movie Magic

アメリカ在住大学生が映画を語るブログ

ピーター・フォンダが横切る午後3時

またひとり僕のヒーローが息を引き取った。1969年に公開されてから40年以上が経つ本作は、今でもカルト的人氣を博し、「アメリカンニューシネマ」を代表する作品として名が挙がってくる。

 

ピーター・フォンダと言えば『イージーライダー』を思い浮かべる人は多いだろうし、当時の若者からしたらアイドルのような存在なのかもしれない。アイドルと聞くとお嬢様のようなドレスを着て、ファンを魅了する乃木坂46を想像してしまうが、ここでいうアイドルは髭モジャモジャのひねくれヒッピー。

 

60年代後半に青春期を過ごした人たちからしたら、昔の思い出を蒸し返しているようで懐かしいだろうけど、90年代後半に生まれた僕も一丁前に過去の記憶が断片的に蘇る。この映画をはじめてみたのは高校生のときで、いまでもあのよくわからない衝撃とカッコいいと直感で感じた瞬間はいまでも忘れない。

 

この記事を読んで下さっているあなたがもし当時を生きる世代なら「なんだこの青二才が!調子乗り上がって!」と思ってしまうかもしれないが、僕にとっても 当時高校生でなにもわからなかった僕に人生のエキスを注いでくれたのは紛れもなくピーター・フォンダだった。

 

世代は違えど彼を英雄視する事実は変わりないし、当時を生きた人間じゃなくても、作品として後世へと受け継がれていく映画の文化を横目で見ていると感慨深いものがある。

 

僕は当時のことは何もわからないけど、直感でカッコいいと感じたし、何度も見返すような好きな映画ではないけど、僕の人生に影響を与えた映画であることは間違いない。ただそれからというもの目立った功績はなく、酒に明け暮れた不穏期を10年くらい過ごした後映画に何本か出演するも、結局再び脚光を得ることなく、過去の人として静かに息を引き取った。79歳だった。

 

彼の訃報が流れた8月16日、一種の時代の終わりを意味するような氣がして、愛する弟の前で倒れたポートガス・D・エースとエースを救出しにきた時代の帝王白ひげが亡くなった頂上決戦を読んだ当時の氣持ちとなぜか重なってくる。

 

思えばあの映画を観て僕はアメリカに憧れを抱き、ヒッチハイクでアメリカを横断したので、母親からしたら心配な要素を助長した原型映画であり、彼女からしたら複雑なのかもしれない。ただひとつだけ言えることはあの映画と出会わなかったら、いまの僕はないと断言できるだろうし、多分アメリカにも来てなかったのだと思う。

 

正確な時期は覚えていないが、彼が亡くなってから数日後、地響きのような轟音を鳴らした真っ黒なハーレーが突然現れ、こっちに来いと合図をしてくる男がいた。突然の出来事でよくわからなかったが、言われるがままに彼の元へ行き、バイクの後ろに座る。ヘルメットを深く被り、軽い加齢臭がしただけで誰かはわからなかったが、2人でフリーウェイ(高速道路)を、風に揺られながらドライブした。そんな夢をみた。

 

two people riding a big Harley-Davidson

 

最後まで彼が何者なのか正体は謎のままだが、バイクの後ろには星条旗が常に風に揺れながら、アメリカ中を旅している。そして今日学校を終え、帰路に着く頃、自宅を目の前に夢で見た黒いハーレーが横切った。午後3時になると毎日のようにバイク特有のガソリンの匂いを醸しながらどこかへ消えていく近所の中年おじさんがいる。

 

ここで僕はハッと夢の中で僕が一緒に旅したのは、彼であったことに氣が付いたのだが、そんな彼もピーターを想うひとりの若者だったのかもしれない。もしかしたらいまだに若かりしときのヒッピー時代を懐かしみながらあのハーレーに乗っているかもしれないし、単純にアメリカを愛する一男性として、アメリカを象徴するあの格好で2019年をうろついているのかもしれない。

 

彼を見るときは決まってバイクに乗りながらブウォンと音を鳴らす仮面ライダーみたいな登場をするので、いままで顔を見たことがない。もしかすると彼自身がピーター・フォンダなのかもしれないし、仮にそう思えると、いまでも僕の側に彼がいる氣がして悪い氣にはならない。人は死んでしまうけど、彼が遺した生き様はハーレー男にも、遠いアジアの島国から来た少年にも同じように写っている。

 

たとえ時代が違っても、人種が違っても、育った環境が違っても、同じ食卓を囲んでしまえばバカ笑いしながら記憶の一部を共有する。人々は、ハーレー男は白人の中年男性の愛国主義者で、僕はアジアから来た眼鏡青年といった感じで区別をしたがるが、外観の違いだけで、そんなことに本来意味なんかない。でも実際は想像の中にしかないユートピアなんだよな。

 

そう思った午後3時。小腹が空いてきた。おやつでも食べようかな