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アメリカ在住大学生が映画を語るブログ

ギリシャ映画『籠の中の乙女』あらすじ感想ネタバレ:ゾンビは黄色い花 ネコは恐ろしい

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Boo Productions

「籠の中の乙女(Κυνόδοντας)」は厳格の父と外の世界を知らない3人の子供の家族の物語。
本作で監督を務めたヨルゴス・ランティモスは"ギリシャ出身のこの世代の監督で一番才能がある"と謳われた。
 
日本から遠く離れたギリシャなんて最近経済破綻したくらいの認識しかないが、ランティモス監督はそのギリシャから世界に進出するほどその才能が認められている。
 
そんな彼が国際的に一番最初に脚光を浴びた作品が本作「籠の中の乙女」である。
 

はじめに

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兄妹3人
若手監督や奇抜な作品を表彰するカンヌ映画祭の「ある視点」部門でグランプリを受賞した。
犬がブタペストを暴走する「ホワイトゴット 少女と犬の狂信曲」など、とにかく変わっている映画が選ばれるこの部門でも、本作の世界観は常軌を逸している。
 
全てを手中に収めたい厳格の父のもと三人の子供は、生まれてから一度も家の外に出たことがない
下界は危ないと洗脳され、独自の世界観がその狭い敷地で育っていく。
二人の娘とひとりの弟の三人兄弟と両親は毎日決まったスケジュールをこなし、まるで軍隊を育成するかのように厳しく調教される。
年ごろの息子はその性欲処理のためにクリスティーナを雇い、機械的にセックスを行う。
セックスでさえもひとつの決められた日課で、しっかり調教されたひとり息子はロボットのように真顔で行為をする。
 
工業を営む父のひとりだけが、下界と繋がる唯一の接点で、子供たちは車でないと下界には出られないと教え込まれる
父と母の定期的なセックスでさえも息子の行為をそのまま再現したように、熟年夫婦の夜も活発なのだ。
普通の社会とまるで接点がないため、その教育も限度を超えて、別次元へと飛躍してる。
 

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家族の団らんの時間に交わされる会話の一部を紹介しよう。
 
"母上様、プッシーとはどういった意味ですか?”
 
とひとりの娘が質問をする。すると母はこう答えた。
 
"プッシーは大きな明かりのこと。"
"例文はプッシーを消したら急に部屋が暗くなった。"
 
お?おおおお!?とツッコまずにはいられない。
ちなみにプッシーは英語で女性器のことを指す。さらに
 
"母上様、お電話をとって下さる?”
 
と娘が言うと、
 
”いいよ”
 
と言って塩を取って渡す。
お、おい!!
 
たしかに言語など自分たちがりんごは赤い果実だと信じているだけで、実際にその果実を昔のひとがプッシーと名付けていたら、今頃はそこらかしこでプッシー、プッシーと当たり前のように連呼していたのかもしれない。
 
ゾンビを黄色い花と教わった息子は、庭に咲く黄色い花を見つけては、"ママ〜!ゾンビ見つけたよ!"と叫ぶ。
 
そのシーンだけ取り出してみると訳わからないが、人間の信じる常識よいうものがいかに怖いかと思い知るシーンでもあった。
限られた狭い空間の中で、世界と切り離した全く別の世界を創造するとどうなるのかという、実験的映画であるが、見ていて全く飽きない。
 
それがランティモス監督の手腕の高さなのだと思う。
女性器や男性器にはじまり、がっつりセックスシーンを恥じることなく描く。
 

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ネコを刃物で追っかけて
あんなに可愛いネコでさえも、彼らの世界では恐ろしい生き物で、自宅に紛れ込んだネコを大きななたで殺す。
 

「ルーム」と「籠の中の乙女」

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このシーン謎すぎる、、、
幼い男の子と母親が監禁された小さい部屋で、外の世界を知らずに育つ子供と母親の感動映画「ルーム」と本作は作風が似ている。
「キャプテンマーベル」「ユニコーンストア」で知られるブリー・ラーソンが母親を熱演したことで話題になった。
 
狭い一部屋の中で、6歳まで育った子供は、テレビの世界は現実ではなく、作られた映画のようなものだと信じていた。
そんな親子が外の世界に脱出する話だが、本作はそんな「ルーム」とは全くの真逆のことをやろうとしているのが面白い。
「ルーム」より「籠の中の乙女」のほうが数年先に撮られているいるので、本作をベースにして考える。
狭い一部屋で孤立感の漂う世界を描いた「ルーム」に比べ、「籠の中の乙女」では、かなりでかい豪邸のような家が舞台となっている。
 
開放感があり、外を見回すと綺麗な空と壮大な大地が広がる。全く閉鎖感を感じないし、なかににとじ込められた感覚もない。
視覚的に制限がある「ルーム」とは真逆なのだ。彼らを孤立させているのは、視覚的な外壁ではなく、自分なのだ。
生まれてから培ってきた自分の価値観や精神が、外は危ない、出るものではないと自分に言い聞かせている。
 
本作は単なるSF映画に過ぎないが、この映画が描くことは現代社会を生きる僕らにも通じる話になる。
当然だと思っていた固定概念や常識など、僕らの行動を制限し、広い視野を持つことを諦めるということになりかねないのだ。
変なSF映画だったわ!と簡単には終わらせてくれない”ランティモス砲"は鳴り止まない。
 

ランティモスが描く独特な世界観

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本作のヨルゴス・ランティモス監督が描く映画の世界観は独自性を極め、不思議な魅力に観客は取り込まれる。
 
2015年製作の「ロブスター」は、子孫を残すことが義務付けられた近未来を舞台に、45日以内に再婚相手を探さないと、動物にその姿を変えられてしまうという設定のSF恋愛映画だ。
 
本作はカンヌ映画祭でグランプリを受賞し、批評家からの評価も高い。
アカデミー賞でも注目された「女王陛下のお気に入り」では、18世紀の英国宮殿を舞台に、3人の女性の戦いが情緒的に描かれた。
「ララランド」のエマ・ストーンが共演し、主演のオリビア・コールマンが主演女優賞を受賞した。
 
ランティモス監督は、常に誰も思いつかない発想力と独自の世界観を兼ね備え、世界中の映画ファンを熱狂させる。
 
あれほどの奇抜な発想力を、類い稀な才能を活かして映像化させる。
 
ちなみに原題は”dogtooth”。個人的には「籠の中の乙女」という邦題はかなり納得(最近の邦題がふざけてるほどダサいので)している。
「ロブスター」でも可愛い犬が出てきたけど、ますますランティモスの生態が気になるなぁ
びぇ!
 
ヨルゴスランティモス監督作品はこちら

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