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アメリカ在住大学生が映画を語るブログ

映画『魂のゆくえ』あらすじ感想ネタバレ:50年の月日を費やした本作が人間のスピリチュアル的な側面を描き出す

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A24

こんちくわ!Shygonです!

今回は神父の心の葛藤を描く社会派ドラマ

魂のゆくえ

について熱く語りたいと思います!

2017年に公開された本作は、心に深い傷を負った神父が、社会的問題を抱える教会に疑問を抱き、これまでの信仰に対しての 心の葛藤を描く映画です。

 

サクッとあらすじ

ニューヨークの小さな教会で牧師を務めるエルンスト・トーラー牧師は、自身の考えを年報に掲載する記事にまとめていた。

トーラーは書き上がったものに満足することができず、それを破り捨ててしまった。

トーラーは従軍牧師としても活動していたが、息子のジョセフの戦死をきっかけに活動から退くことになった。

ジョセフに入隊を勧めたのはトーラー自身であった。

軍隊に送り出した以上、そうなる可能性も十分に覚悟していたとはいえ、トーラーの苦悶と自責の念は極めて強かった。

そんな折、トーラーはメアリーと出会った。メアリーはトーラーに夫のマイケルと面談するように頼み込んできた。

マイケルは極端な環境保護論者であり、メアリーに中絶を勧めてくるのだという。

トーラーがその理由を問い質したところ、マイケルは「この世界は気候変動によって過酷なものになってしまい、もう元には戻れないでしょう。

そんな世界に子供を産み落としたくないのです。」と答えた。

 (Wikipediaより抜粋)

 

構想50年の本作が人間の本質を描き出す

アメリカ映画史の中で、数々の名作を送り出してきたポール・シュレイダーが脚本&監督を務めました。

ポール・シュレイダーはロバート・デ・ニーロが主演した名作「タクシードライバー」やボクシング映画「レイジングブル」など誰もが知る名作の脚本を務めてきました。

本作ではそんな彼が50年の月日をかけ完成させ、彼のキャリアの中でも自信作なのが本作「魂のゆくえ」です。

 

名な映画賞であるゴッサム賞では脚本賞と主演を演じたイーサン・ホークが男優賞を受賞する快挙を達成したのです。

 ある神父の理想と現実

わずか350万ドルの低予算映画ですが、全米公開がたった数館ながら、口コミで広がり、ポール・シュレイダー作品としては1館あたりの興行収入が最高額を記録しました。

 トラー

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46歳の中年ジジイの神父。息子をイラク戦争で亡くし、妻とは離婚。神父として日々人々を救うことに尽力する。

イーサン・ホークが演じました。筆者Shygonの大好きな俳優ですが、これまでの役とは一転し、真面目な神父を演じます。

これほど真剣な神父に隠れる世の中の矛盾や心の葛藤を演じるのには彼以外できません。それほど彼のみなせる演技だと思います。もう言葉が出ない、天才でした。

 メアリー

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悩みを抱え、トラーのもとに訪れます。環境活動家の夫に妊娠したことを告げると、将来の子供に汚された地球に生きて欲しくないという理由堕ろすよう言われてしまう。

 

アマンダ・セイフライドが演じる。「マンマミーア」「レミゼラブル」などのミュージカルから「テッド2」などのコメディまで幅広い役柄を演じることで知られています。

 

SHYGON的批評

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信仰心と道徳心に触れる神父の心の葛藤を描いた本作は2時間弱ひたすら彼の葛藤が描かれるだけの映画です。

観客がわっと驚くような起承転結など無く、中年ジジイの心もナレーションとして代弁します。

映像として、ドラマを観せるだけでなく、ナレーションを通して、映像の奥にあるキャラクターの心の声も物語の一部として伝えます。

トラーが日記を毎日書くように淡々と描かれる日常。ロングカットせずにカメラ固定で人々の日常を描き、その普遍的な日常を劇的に飾る音楽。

 

ナレーションがトラーの心情を肩代わりして語る本作は単純にキャラクターたちの心の奥底に眠る矛盾や社会の不秩序を描き出すように見えます。

しかし同時に、一筋縄にはいかない彼らの人生を象徴するように、歯切れの悪いストーリー展開に気味の悪いテンポが脳裏から離れません。

これほど人間の内なる世界を映像化している映画が他にないほど、スピリチュアル的な観点で僕の感覚と合致する場面が多いような気がします。

 物語の後半(ネタバレ)

これからはネタバレが含まれます。

*最後のシーンのネタバレまではしていませんので、自分で見て考えてみて下さい。なぜそんなことをするのかは、最後に理由を書いています。

 

ーサン・ホーク演じるトラーはこれまでの自身の後ろめたい人生を隠すように、日々神父として人々を救おうとします。

 

トラーの父親から男は従軍し、国に尽くします。

その伝統をトラー自身も全うし、息子にも従軍を進めます。

 

彼の妻には反対されながらも、結局最後は従軍した息子は半年後にはイラクで命を落としてしまうのです。

息子の死によって家を出る妻。独り身になったトラーはそれからも神父を続けるが、これまで信じてきた信仰心に疑問を持ち始めてしまいます。

 

んな自身の過去に囚われる生活をしているある日、ひとりの女性が彼のもとに訪れます。女性の婚約者は過激な環境保護家で刑務所に入っていたことも。

そんな彼との間に子供を授かったのでした。

しかし彼はこれから来たる汚染された地球の未来に自らの子供に生きて欲しくないと言い出しているのでした。

 

トラーはそれに対し、

「来たる絶望的な未来が理由に、お腹にいる子供を殺す動機にはならない。」

と彼らを説得をするのです。

定期的に面会し、キリスト教の教えを彼らに説くのでした。

トラーは日々そんな人々の悩みを日々聴き、神父としてキリスト教の正しい教えを布教していたのでした。

 

んな日ある出来事が突然起こる。

環境保護家の夫が銃によって自殺を遂げるのでした。

トラーが神父として彼を正しい道に導いているときに起こってしまいます。

 

されたメリーとお腹に宿る新たな命。

ラーの心に突き刺さるやるせない気持ち。

物語は思わぬ方向に舵を切るのだった‥

 

最後につらつらと書いてみる。

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これまで神父として、悩んでいる人々の話に耳を傾け、神の教えを説くトラー。

神を通して彼らを救うはずの神父が1番精神的に不安定なのだ。自分の意思で戦争へ行かせた最愛の息子はすでにこの世を去り、妻まで失う彼は毎朝朝3時、涙とともに目が覚める。

そんな日々がもう5ヶ月も続いている。まだ夜が明ける前の朝方、彼はベンチに座りあたりを眺める。そんな彼の生活こそが僕からしたら美しい。

 

これこそが映画として人間の魅力を最大限に抽出して描き出しているような気がする。本作は4:3の画角で撮影されているので、普段他の映画で見る横長の画角ではない。

2013年公開の「イーダ」から着想を得たと監督は話しているが、他にも多くの名作と関連する点が多いらしい。

 

Let’s Talk About the Ending of ‘First Reformed’ によると、本作のストーリー展開は主に2つの映画から着想を得ているそうだ。

ひとつはイングマール・ベイルマン監督の「冬の光」。もうひとつはロベール・ブレッソン監督の「田舎司祭の日記」だそう。

 

イングマール・ベイルマンの作品は数作しか観てないし、そんな語れるほど研究をしていない。英語が読める方はぜひこの文章を読んでほしい。

本作のステージ裏を過去の名作と照らし合わせて解説している。

他人の思うことを自分のことのように語るのは嫌なので、僕がもうすこし映画について深いところまで勉強した時点でここにコメントを足すことにしようと思う。 


なわけでこれまで偉そうにこの映画を批評してみたわけですけど、本当に意味深な描写が多い。

いまの段階で理解できるほど、僕の頭がついていっていないですね。天才が50年かけた力作ということもあり、これほどさっぱりやられた映画は久しぶりですよ。

 

でもひとつだけは断言できる。

こんな映画こそが後世に残り、映画の常識をやがて変えてくれる。

かなりの名声を手に入れた彼でさえ、低予算の限定公開だったのは実によく理解できる。

こんな表面上になにも起こらない質素で眠くなるような映画を誰が見るのか。

今回はアメリカが舞台だったけど、そんなことはたぶん関係なくて、いま現代を生きている人たち全員が普段から背けている問題を描いているのだと思う。

人生のほとんどを費やしてきた信仰心がいとも簡単に崩れてしまう。

 

神父としての信仰の裏側にある自分の真理が矛盾していることに気付いているのに、気付こうとしない。

本当は分かっているのに、したくない。

だって今の自分を否定することになるから。

本作はある中年神父ただひとりの心の葛藤を描いたたけの作品だけど、他人ひとりの話だけに終わらず、全ての人間に直面するなにかを本作は訴えている気がしてる。

いまの段階でわからなすぎるので結論は出したくない。

また何年後になるかわからないけども、もう一度見てみて、少しでもこの映画の本質を理解できていたらと願うばかりである。

 

してどうでもいいけど、なぜこんな演技をしたイーサン・ホークが2019年アカデミー主演男優賞にノミネートすらされない。

 

僕はそこに激怒したい。

酒飲みに、売れない作家に、腐った政治家に、小太り気分屋に、伝説のミュージシャン。

確かにどれも卓越した演技は評価されるべき。でもなぜみんな奥底に隠れた天才を棚の奥に隠そうとするのかな。

この映画が全く評価されない(脚本賞のみノミネート)のは充分理解している。

 

こんなものを大々的に評価するとアメリカの根本的なことから取り糺されて、一気にアメリカ社会が転覆する恐れがあるからだ。

でも、こんな作品をぼくたちは埋もれさせてはならないし、いい作品にはいい!と声を挙げていう。

 

これが21世紀だからこそなせる技である。

日本では2019年6月に公開が決定し、おそらくほとんどの人がつまんないor見ようとしないであろう。

でも映画とは普段隠してる人間の闇の部分を改めて引っ張り出して考えるきっかけをくれる道具だと思っている。

そんなこと普段からすると死んでしまいたくなるからしないが、こんなまたとない機会に考えてみることにしたらどうであろうか。

びぇ!

 

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