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アメリカ在住大学生が映画を語るブログ

名作『アメリカンヒストリーX』をなぜこんなに愛しているのか?【あらすじ感想ネタバレあり】

poater of movie american history x

©2006-2018 Fanpop

100本に一本くらいのペースで本当に好きな、普段の生活の中で突然見たくなる映画があるのです。今回ご紹介する映画もその中に数えられ、数少ない本当に好きな映画の一本です。

 

アメリカンヒストリーX 

 

ではなぜこんなに僕が好きなのでしょうか。今回は正確に伝えるため、細分化し、様々なカテゴリーに分けて語っていきます!

 

 あらすじと背景

1998年製作の本作はアメリカ、ロサンゼルスを舞台に、白人至上主義でネオナチの中心的な人物であった兄貴とそれに影響される弟の兄弟物語を、過去シーンを途中で組み込み、なぜ兄弟が過激な思想に傾倒していったかを現在の時間軸と共に交互に進んでいく話です。

 

製作サイドの話をすると監督トニー・ケイは他に作品はなく、主にCMなどの監督を担当する人です。

その影響もあり、場面場面のインパクトがとても強く、見た後も鮮明に頭に残るほど画作りが印象的です。

主演のエドワード・ノートンがグループの中で中心的な位置を占める兄貴を演じています。

彼は本作以外に、「バードマン(あるいは無知がもたらす予期せぬ奇跡)」,「真実の行方」など非常に映画のキャラクターとして変わったイカレキレ者を演じることが多いです。

 

そんな本作も彼の特徴がしっかり反映されていて、彼の活躍が間違いなく映画の出来を左右しているに違いありません。

この映画の評価として世界最大級の映画データベースIMDbでは、全映画の中でトップ250にランクインしており、評価自体も8.5とかなり高評価であるのです。 

 

 交わる2つの時間軸

one young man and one boy talking from the scene american history x

©2015 Visual Parables

本作は非常に変わった場面展開をします。はじめに、時間軸が2つあるのです。

1つ目は現在です。兄貴は人殺しで刑務所に3年入っていて、その後の出所した初日から映画がスタートします。

2つ目は過去です。現在軸で出所した兄貴は、以前のシンボルであったスキンヘッドから掛け離れ、普通の髪型に戻っているのでした。

 

さらにあんなに白人至上主義として人種差別に傾倒していたにも関わらず、人が変わったかのようにムショ入り前の自分が導いていたネオナチの集団を脱退し、その彼らと対立するまで人が変わったのです。

 

なぜ彼があんなに傾倒していたのか

なぜあんな思想を持つようになったのか

 

を過去軸として描くのです。白人至上主義に傾倒していった背景には、昔真面目に働いていた父親が黒人の麻薬売人に殺されたという悲しい過去があったのです。その情緒不安定な時期にネオナチの思想を持つようになってしまったのです。

そして、グループの中心的な存在になった矢先に刑務所に放り込まれるのですが、その中で囚人の大部分が黒人であり、そこで多人種との関わりを無理矢理にでも持つようになったのです。

 

この主人公というものはとても頭のいい人です。なぜなら環境が変わると徐々にですが自分の間違いを自分で見つけ、危険を顧みず行動に移すのです。

過去の経験が引きつり、有色人種に完全なる偏見を持っていたのがネオナチへ導いたのだと自分で気付くのです。

このようにこの2つの重要な場面を分けて、同時に描くことで、彼らがなぜどうなったのかということが非常にわかりやすくなり、見た後でも鮮明に頭に残る映画に出来上がるのです。

 

その2つの対称的な場面を白黒とカラーの映像に区別して描き分けているのです。

過去の場面では白黒の映像加工が施され、現在軸ではカラー加工がされています。完全に視覚的に区別することで、人物の背景を時間軸で切り分けて理解することができるのです。

そして、本作はこの白黒とカラー映像の区別を他の箇所で非常にうまく活用しています。はじまりとおわりのシーンはどちらも有名なベニスビーチの浜辺で波が打ち寄せる箇所なのです。

 

冒頭では白黒であった映像が、終演間際のベニスビーチはカラーの永続加工がされているのです。

では一体この白黒とカラーの区別が成す意味とはなんなのでしょうか。それに関しては最後のコーナーでこの映画の訴えたいこと、つまり僕らへのメッセージについて語ります。

 

 印象的な画作りと影響

one naked man with nazi tatto is almost captured by police from the scene of american history x

©Youtube

映画を見るうえで

 

印象的なシーンや

言葉は観客を大いに奮い立たせ名勝負や

名シーンが生まれるのは映画をみる一種の醍醐味

 

だと思います。

例えば、「ゴッドファーザー」の登場シーンや、「ヒート」でのロバート・デ・ニーロ演じる殺し屋がアル・パチーノ演じる警察官に追い詰められるなど見所がいっぱいあります。

そんな中で、僕個人の意見として「アメリカンヒストリーX」のあるシーンは数ある映画の中でも名シーンを極めていると思います。

過去を振り返るシーンにて、兄貴デレクが刑務所に入る理由となった、殺人事件を起こし現行犯逮捕されるシーンです。

 

もう完全にネオナチに呪われ、

左胸にはナチスの刺青を彫った

狂気染みた顔をしたデレクを見たものは怖気付き

恐怖感以外感情が一切無くなるのです。

 

そんな役作り、画面作りをする兄貴を演じたエドワード・ノートンは天才の何者でもありません。

さらにそれが白人至上主義に徐々に傾倒していく彼らの移り用は見事の一言に尽きると思います。

人というものは常に成長し、その判断材料はそのときにその人が影響を受けているものです。

映画には何らかのキャラクターが登場し、彼らには感情の浮き沈みが存在し、その頂点こそが名シーンとなるデレクが警察に捕まるシーンなのです。

そして、それから更生していくデレクもその名シーンとは対称的にとても見応えがあるものとなります。  

 

 この映画が僕らに訴え続けることとは

two men and two women is walking behind the jail from the scene of american history x

©2018 Sky Cinema

 

(ネタバレが含まれます。)

 

ココの箇所がこの映画の最大の魅力であり、これを語らずしてこの映画を語ったとは言い切れません。実はこの映画物語の筋書きはとてもシンプルで難解な点は何ひとつありません

最終的に兄貴デレクは出所後、人生をやり直すため、以前いたネオナチから即座に脱退し、弟も強制的にネオナチのような過激なグループとは縁を切ります。

やっと兄弟を筆頭に家族全体が人種の違いだけで区別するという一方的な考えを捨て、家族を養うために社会復帰をしようとした矢先に弟は黒人グループに殺されてしまいます。

 

そして、この映画のタイトル「アメリカンヒストリーX」の意味です。

弟はネオナチにて中心的な存在であった兄貴を神のように拝んでおり、学校の宿題の読書感想文でヒトラーの本を絶賛しました。

勿論、いまの学校の教育理念とそぐわないということで、兄デレクの影響が大きいと考えた校長は兄貴が弟の思考回路にどのような影響を与えているのか知るため、兄弟の物語として、それをアメリカンヒストリーXと題し、提出するように求めます。

 

つまり、この映画は決して兄デレクのネオナチへの傾倒と自分の間違えに気付くまでの、彼個人の話ではなく、それが兄弟含め家族全体に響き渡るというところまでを描いているのです。

そして、弟は校長に言われた通り宿題をしっかりやり次の日学校に行くのですが、渡す前に殺されてしまいます。

そして、最後の締めのベニスビーチで弟が書いたエッセイをナレーション方式で読まれ、映画の幕が閉じるのです。

 

争いというものは決して何も生まない

 

これがアメリカンヒストリーXの結論であり、この映画の全てだったのです。

 

そして、冒頭と最後のベニスビーチの波打ちシーンの白黒とカラーについてです。

これについては確かな答えはないと思いますので、見たときにどう思うかが正解であると思います。なのでここでは僕個人の見解を述べさせていただきます。

せっかく正しい舵取りをし、まともに生活が始まった矢先にデレクは最愛の弟を亡くします。

僕は弟の最後の結論を元に考えると、その後もデレクはしっかりと社会復帰を果たすのではないかと思います。

 

弟が殺された後は映画として描かれてはいませんが、その複雑な終わり方は現代社会への投影なのではないかと思います。人種を取り巻く問題はさらに深刻にかつ複雑化しました。

このような本当に腑に落ちない、やるせないようなスッキリしなさすぎる映画は他にありません。

ですが、このやるせない、腑に落ちない気持ちこそがいまの人種を取り巻く問題の現状であり、それを描ききることを考えるとこの結末はとても納得がいくのです。

 

 現代社会と本作の繋がり

view of somewhere with american flag

ここまでご覧になったみなさんはなにか気づくことがあるのではないかと思います。「アメリカンヒストリーX」は1998年に製作されました。この映画で扱っていることと、いま現在アメリカが抱えている社会的な問題は

 

20年経っても全く変わっていないということです。

 

ここ最近世界中で無差別テロが多発や、学校で銃の無差別乱射など到底理解できないことが世界中で巻き起こっています。

その根底にはデレクのように過去の経験や現代社会への不満が募り、その発散の仕方を間違え、赤の他人に多大なる迷惑を掛けてしまうということが起こるのです。

それは本作のようにアメリカの一部だけの問題ではなく、世界中にそのような風習が広がってしまっているようなのです。

あいにくデレクはとても頭がキレるので、自分で気付き、更生をしました。

 

最後の悲劇が表すように冒頭と最後の白黒とカラーの変化は 

 

より事態が複雑化した 

 

と考えるべきでしょう。

そして、もうひとつはトランプ大統領です。2016年前代未聞の結果で彼が新しい大統領になりました。

そこにはデレクがネオナチに傾倒していったようにいまのアメリカの現状への怒りを持っている人たちがいるということを今回の大統領選にて確認できるのです。

本作の劇中で白人ではない人たちが経営しているお店を夜な夜な襲うシーンがありましたが、彼らは違法移民のひとたちを安く囲い込み、純アメリカ人である彼らの職などを奪っているとして憤慨していました。

 

このようにトランプ大統領が就任した背景には昔からいた主に白人たちの立場を奪われた人たちからの支持というものが大きかったのですから、そんな彼らが日常生活からどう思っているのかという断片的な一面を本作で描いているのです。

白人の立場から見るといまのアメリカの対応は数十年前から変わらず、その現状というものを本作、アメリカンヒストリーXでいまも垣間見ることもできるのです。

びぇ!